“MVP”鳥海の裏で支えるベテラン2人 車いすバスケの躍進に、若手への信頼感
目指すバスケットを体現してつかんだ勝利
史上初の準決勝進出を果たした車いすバスケ男子日本代表。鳥海の活躍が目立つが、香西と藤本、2人のベテランの存在も忘れてはならない 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
「喜び方が分からない」
取材エリアで、香西宏昭はこう発した。日本男子のパラリンピック最高順位は、ソウルパラリンピックと北京パラリンピックの7位。「次に向かっているからなのかな」とも付け足したが、日本が未知の領域に足を踏み入れたからこそ出た言葉とも言えるだろう。
日本は1次リーグを4勝1敗で、グループAを2位通過した。「トランジションバスケ」、「ディフェンスで世界に勝つ」。京谷和幸ヘッドコーチ(HC)や選手たちが常々口にし、日本が標榜(ひょうぼう)するバスケットを体現した結果の賜物(たまもの)で、世界と戦える力を証明した5試合だったし、無観客ではあるが自国開催での「勢い」もあったと言えるだろう。
しかし、ここからメダル獲得へ向けて勝ち上がるためには、勢いだけでは難しい。2018年の世界選手権も1次リーグを1位で通過し「勢い」はあったが、準々決勝で敗れてしまった。“流れが良くない”、“自分たちのバスケットができていない”ときに、泥臭くてもいいから得点を重ね、チーム全体で我慢することが重要だ。
そしてその役割を豪州戦で果たしたのは、2人のベテランエース、香西と藤本怜央だろう。
チーム力の向上を示した豪州戦
第2Qから登場し、チーム最多20得点を挙げた香西 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
しかしその活躍の裏にはやはり、ベテランが土台となってチームを支えているからとも言えるだろう。豪州戦でチーム最多の20得点を挙げた香西と、14得点を挙げた藤本はやはりチームに欠かせない存在だ。
第1Qを14-14の同点で終えた日本は、第2Q開始から香西がコートに入ると、2本のスリーポイントを含む14得点を記録し、チームに勢いをつけた。藤本は14得点を挙げたが、チームとしていいオフェンスができていないときに、ボールを預けてタフショットを決めてつなぐというシーンが多かった。持ち点4.5のハイポインターとしての役割をしっかり果たしていると言えるだろう。
香西は今のチームについてこう語っている。
「第1試合のコロンビア戦からどんどん成長していく姿をお見せできているし、自分たち自身も(成長を)感じていて、それがすごくうれしい。大会を通じて成長していくチームって強いと思うんですよね。(大会を開催して)こういう機会をいただいていることに感謝している」
大会初戦では固さも見えた日本だが、試合をこなすごとにチーム力が上がってきた。ではどう成長したのか? それを示したのが豪州戦だった。
「3年前(2018年世界選手権)からの成長が分かりやすい。グループリーグ1位通過をしながら準々決勝で負けてしまった。(試合の)入り方が悪かったり、やるべきことを続けられなかった。この大会は特にやれることをやろうという雰囲気がチームにある。これはすごいことで、そこが一番成長している部分だと思う」
香西の言うやれることとは、オフェンスがうまくいかないときこそ、ハードにディフェンスをしたり、追いあげられているときのベンチからの鼓舞だったり、当たり前の事かもしれない。しかし、それができている今大会に日本の強みがある。