今できる最高のパラリンピック開会式 多くの意義を持つ、13日間の戦いが始まる

スポーツナビ

東京パラリンピックが開幕。開会式は「WE HAVE WINGS(私たちは翼を持っている)」のコンセプトのもと、統一性のあるパフォーマンスが行われた 【写真は共同】

 史上初めて同一都市で2度目の開催となる、東京パラリンピックが開幕した。開会式は、新型コロナウイルスの感染拡大を鑑みて、五輪と同様に無観客で行われ、報道陣や関係者などのみが会場で見届けた。コンセプトは「WE HAVE WINGS(私たちは翼を持っている)」で、逆風でも「勇気を出して翼を広げることで、思わぬ場所に到達できる」といった意味を込めている。国立競技場を「パラ・エアポート」という仮想の空港に見立て、多様性のある、さまざまなパフォーマンスが行われた。

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「片翼の小さな飛行機」が飛び立つまで

開会式では「翼」をテーマにした物語が進行。「片翼の小さな飛行機」の少女が飛び立つまでのストーリーが描かれた 【写真は共同】

 率直な感想を言うと、現状で考えうる限りで最高の開会式であった、と思う。

 開会式のメインストーリーは、「片翼の小さな飛行機」の少女が飛び立つまでの物語。さまざまな形の飛行機が飛ぶ中、なかなか飛び出せずに苦悩するが、仲間の後押しなどもあり、最後は自分を信じて飛び立つ決意をするという話だ。

 Tokyo2020公式ツイッターを引用すると、

 人間は誰もが、自分の「翼」を持っていて、勇気を出してその「翼」を広げることで、思わぬ場所に到達できる。その「翼」をテーマにした物語。

 とある。これはもちろん、障がいのある人へ向けたメッセージでもあるが、コロナ禍において不自由な生活を強いられ、世界中の人々や国そのものが“翼”を失っている状態で、多くの人が共感できたのではないだろうか。

 コロナ禍において、自分の「翼」を広げるとはどういうことだろうか。それをもう一度考えて、前を向きたいと思える開会式だった。

光るデコトラから登場したのは布袋寅泰さん(中央奥)。障がいを持つギタリストらと共演して沸かせた 【写真は共同】

 他にも、面白い演出は多く、中でも目を引いたのはやはり、ド派手に装飾された“デコトラ”の登場だろう。会場で見ていたときは、東京ディズニーランドのエレクトリカルパレードみたいなものが始まったかな、と思ったが、それとは真逆(!?)の映画『キル・ビル』のテーマが流れ、デコトラの中から現れたのは世界的ギタリストの布袋寅泰さん! 前の席では開会式に少し飽きたのか、スマートフォンをいじっていた外国人記者もそのときは画面を消して、デコトラを見つめていた。

 また、これらの演出が単発ではなく、あくまで「片翼の小さな飛行機」が前を向くために、勇気を与えるパフォーマンスだったのが良かった。大会組織委員会の橋本聖子会長や、国際パラリンピック委員会(IPC)のアンドリュー・パーソンズ会長によるスピーチ、天皇陛下の開会宣言なども、この物語の途中で行われ、世界観が極端に崩れることなく、まるで1つの映画を見ているように進む演出に、時間があっという間に過ぎていった。

「多様性と調和」の実現に向けて

日本選手団は旗手の岩渕幸洋(手前左)と谷真海を先頭に入場。今大会は「金メダル20個」の目標を掲げている 【写真は共同】

 開会式はメッセージ性、演出、どれをとってもコロナ禍の今できる最高のもので、世界に誇れる出来だったと感じる。

 もっとも、世界の現状に目を向けると、新型コロナウイルスの感染拡大は続いており、日本でも21都道府県で緊急事態宣言が発令されるほどの非常事態である。

 そんな中で始まるのが、東京パラリンピックだ。

 開催することが、参加することが、正しいのか。多くのアスリートも、そういった複雑な思いを抱えて、この1年間を過ごし、そしてこの日を迎えた。

 いろいろな意見があるだろうが、それでもバブル形式で行われた東京五輪では、一定の成果を収め無事に大会を終わることができた。パーソンズ会長も、パラリンピックではよりいっそうコロナ対策に力を入れると伝えている。我々取材陣も、4日に一回のPCR検査や毎日の体調管理をアプリで記録、ブッキングシステムで予約した会場のみ取材に行くなど、感染対策を徹底して、選手に迷惑をかけないように細心の注意を払うつもりだ。

 コロナ禍で行われる、前例のない東京パラリンピック。それでも、開催されるからには選手を応援し、一人でも多くの人に、テレビやインターネット配信を通じて見てもらいたいと思う。

 今回の東京2020大会のコンセプトの一つに「多様性と調和」がある。特に、この部分に関しては、五輪だけでなく、パラリンピックでの成功があった上で初めて語れるところだろう。

 橋本会長はスピーチで「パラリンピックを迎える準備を始めてから、私たちの社会はユニバーサルデザインの街づくりや心のバリアフリーを目指してきました。一歩一歩、少しずつ、しかし確実に、社会は変わり始めています。アスリートとスポーツの力で世界と未来を変える。これが私たちの使命です」と話し、パーソンズ会長は「私たちは皆さまの信頼と、おもてなしの心にお応えし、障がいのある人々に対する新たな認識が、このパラリンピック競技大会が日本に残す素晴らしいレガシーになるよう努めます」と誓った。

 障がい者への認識をあらためることが「多様性と調和」、すなわち共存社会へつながる一歩となるはずだ。

 史上最多4403選手が参加する今大会では、多くのパラリンピアンたちが自分の翼で羽ばたく姿を見せてくれるだろう。日本選手団は「金メダル20個」の目標を掲げている。史上最多のメダル獲得(金メダル27個を含む計58個のメダル)で沸いた東京五輪に続くメダルラッシュがこちらでも期待される。

 コロナ禍において多くの意義を持ったパラリンピック、13日間の熱い戦いが今始まる。

(取材・文:細谷和憲/スポーツナビ)
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