矢部浩之×中村憲剛スペシャル対談 アジア最終予選は“当たり前”との戦い

吉田治良

興味深いのは守田と碧のボランチ争い

東京五輪組から新たにA代表に食い込んでくる若手も何人かいるはずだ。矢部さんが期待するのが、旗手怜央(写真)と林大地。旗手は「使い続けたら化ける可能性がある」という 【Photo by Atsushi Tomura/Getty Images】

──矢部さんは、誰か注目している選手はいますか?

矢部 僕、旗手(怜央)が好きなんですよ。

中村 旗手!

矢部 彼の評価、低すぎない? いろんなポジションできるし、なんか期待感があるんですよね。A代表でも先発で使い続けたら化ける可能性がある。

中村 本人、めちゃめちゃ喜ぶと思いますよ(笑)。ただ、なんでもできるがゆえの難しさはあるかもしれません。何を武器にしていくのか、どこのポジションをオリジナルにしていくのか。今はその岐路にいるんじゃないですかね。

矢部 でも、身体もすごくない?

中村 いつも筋トレしてたイメージです(笑)。フロンターレでも(三笘)薫の陰に隠れがちでしたし、五輪代表でも当初はそんな感じでしたけど、最終的に左サイドで一番使われたのは彼でしたからね。僕も期待はしていますよ。

──2列目以外で憲剛さんが注目しているポジションはありますか?

中村 僕も中盤の選手だったので、遠藤航とボランチでコンビを組むのが誰になるのか、ですね。守田(英正)なのか(田中)碧なのか、はたまた別の選手になるのか。現状では遠藤が一歩リードしていると思うので、もう1つの椅子を巡って守田と碧が争うという構図は、2人ともフロンターレで一緒にやっていた選手でもありますし、すごく興味深い。

矢部 ちょっと前までは柴崎(岳)の定位置やったのにな。

中村 もちろん、彼が戻ってくる可能性もありますよね。最終予選を経験しているのは大きなアドバンテージですから。

矢部 あとは林(大地)かな。これからぐんぐん伸びそう。それに、日本人はあのプレースタイルが好きなんですよ。ゴン中山(中山雅史)からの系譜というか、ガツガツ行く感じが。これから海外(ベルギーのシントトロイデン)で揉まれるでしょうし、楽しみですよね。

中村 センターFWで言えば、オナイウ阿道がどれくらいやれるかも、最終予選のポイントの1つかもしれません。大迫(勇也)の代役候補は、今のところオナイウか鈴木武蔵、あるいは林、上田(綺世)といったところになると思うので。

──オナイウ選手の魅力とは?

中村 移籍を繰り返しながら少しずつ力をつけ、(横浜)F・マリノスに行ってから、総合力がグッと上がりましたよね。もともとスピードがあって、身体能力も高かったんですが、あのハイテンポなサッカーの中で、テクニックやサッカーIQといった部分がすごく伸びた。点を取るために、逆算して動けるようになったというか。新天地のトゥールーズでしっかり出番を得られれば、さらに期待値は上がりますね。

──では、最終予選を勝ち抜くために、これだけは肝に銘じておくべきだという点はなんでしょう?

中村 焦(じ)れないこと、ですね。うまくいかないことは多々あるので、そこで慌てない。最終予選の緊張感というのは、独特のものがありますから、そういう意味でも、経験者をどれだけメンバーに入れるかもポイントでしょうね。

──やはり、初戦のオマーン戦が大事になりますか?

中村 前回の最終予選では初戦でUAEに負けて、「出場の確率0パーセント」って騒がれましたからね。

矢部 そうそう、あったあった。最終予選が始まったら、マスコミもサポーターもネガティブなことを言うねんな。

中村 初戦に勝つか負けるかで、第2戦の緊張感も全然違いますし、初戦はホームでもあるので、そこは勝っておきたいですね。最初の2試合で「勝ち点6」を取れれば当たり前ですが上出来で、「勝ち点4」以上が目安でしょう。

時間の制限がないのもDAZNのメリット

オマーンとの初戦では、サブチャンネルで中村さんと岩政大樹さんのコンビによる戦術深掘り解説も楽しめる。「ディープな話がしたい」と中村さんは意気込む 【YOJI-GEN】

──今回の最終予選は、AFCと関連14大会のコンテンツ契約を結んだDAZNが、日本戦のみならず全試合を配信することになりました。それについてはどんな感想をお持ちですか?

矢部 どえらいことですよ(笑)。日本代表戦はホームもアウェーも全部ですからね。サッカーファンなら絶対に入会しますよね。個人的には昨年11月からDAZNで『やべっちスタジアム』をやらせてもらっていますけど、そこで手応えも感じていたんです。最近は「やべスタ、観てますよ」って、よく声を掛けてもらえるようになりましたし、やっぱり民放の番組と違って、わざわざお金を払って観に来てくれているわけで、それは本当にうれしいですよね。そこに今回の最終予選の配信ですから。これはDAZN、来てるなと(笑)。

──日本のアウェーゲームに関して言えば、DAZNの独占配信になります。

矢部 みんながDAZNで試合を観ることになるんですよね。仮に、このアウェーゲームを落としたら危ないみたいな、痺れるような状況になったとしたら、ものすごい注目度になると思うんです。これは動きましたね、時代が。

中村 たしかに、すごいことですよね。

矢部 だから、さっき言うてん。ギリギリな試合もあってええんちゃうかって(笑)。ただ個人的に1つ心配なのが、こうして地上波の『やべっちF.C.』が終わってすぐ、DAZNで新番組がスタートして、「あまりにも矢部、スムーズじゃないか」って思われること(笑)。これはもう、巡り合わせですから。僕は本当に強運だなって思います。

──DAZNでは従来通りの試合中継を配信するだけでなく、サブチャンネルも設けて多彩な楽しみ方を提供していくと聞きました。こちらにはお二人も登場予定で、初戦のオマーン戦は憲剛さんと岩政大樹さんとのコンビで、戦術カメラを使った解説をされるそうですね。

中村 そうなんです。メイン中継や地上波では使わないサブチャンネル専用のカメラを入れてもらえると聞きました。がっつり濃い番組にしていいって言われています(笑)。

矢部 それ、めっちゃええな。とことんマニアックな解説、ホンマにやってほしい。絶対についていくから。あとは状況にもよるでしょうけど、ガチンコでサッカー好きのタレントを呼んで、ちょっとバラエティー番組っぽくやるのもありかもしれないね。

中村 地上波ではできない、DAZNにしかできない番組ができたら、それが強みになりますからね。

矢部 サブチャンネルやからね。そこは思い切って、やりたいことをやっていいと思うよ。

中村 僕自身、公式の場で戦術に特化した話をメインに解説させてもらうのは初めての経験なので、ちょっと緊迫感はあります。試合序盤からどんなところを見て、どう分析していくのか、岩政さんの見方も聞きながら、ディープに話していけたらと思っています。

矢部 でも、もしヒリヒリするような試合展開になってしまったら、もう「気持ちや!」でいいと思うで(笑)。

中村 途中まで冷静に戦術を語りながら、急に精神論ですか(笑)?

矢部 うん、そんな憲剛がおっても、観ている人には響くと思うよ。

中村 どうしても気持ちが入るんで、特に試合終盤なんかは盛り上がっちゃいそうですよね。ただ、代表戦、しかも最終予選という真剣勝負の場で、サブチャンネルとはいえ「日本サッカーの今」をライブでちゃんと語る機会は、これまでなかったと思うんです。チャレンジングな取り組みですけど、それこそサッカー中継自体にも、変革の波が訪れているのかなって気がします。

──DAZNでは試合前後も時間に余裕を持った中継をするようで、試合前には見どころやスタメン、試合後にはフラッシュインタビューや振り返りなどもしっかり伝える予定だそうです。

矢部 時間の制限がないのも、DAZNならではのメリットですよね。僕も『やべっちスタジアム』でたっぷり話ができるようになりましたし、ファンの人たちに楽しんでもらえたらいいなと。とにかく、今はもう楽しみで仕方がないですね。ただ、代表戦って集中して黙って観てしまうんですよ。だから、ここっていうときにちゃんとしゃべれるかなぁって心配で(笑)。あと、家にいるときみたいに、「おい、なにしてんねん!」とか、つい口走ってしまうかも。

中村 でも、それもサブチャンネルらしいというか、新しい時代のサッカー番組っぽくて、いいんじゃないですか(笑)。

(企画構成:YOJI-GEN)
矢部浩之(やべ・ひろゆき)
1971年10月23日生まれ。大阪府吹田市出身。90年4月、大阪府立茨木西高サッカー部の先輩である岡村隆史を誘い、ナインティナインを結成。若手ユニット「吉本印天然素材」への参加を経て東京に進出。以降、バラエティーをはじめ、ドラマ、映画でも活躍する人気タレントに。サッカー番組では、2002年4月から20年9月まで『やべっちF.C.』(テレビ朝日系列)で、昨年11月からはDAZNの『やべっちスタジアム』でメインMCを務める。
中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ。東京都小平市出身。都立久留米高(現・東京都立東久留米総合高)、中央大を経て2003年に川崎フロンターレ加入。中心選手として17年、18年、20年のJ1リーグ優勝、19年のルヴァンカップ制覇など数々のタイトル獲得に貢献。Jリーグベストイレブンには8回選出。16年には歴代最年長の36歳で年間最優秀選手賞に輝く。06年10月にデビューの日本代表では、通算68試合・6得点。10年の南アフリカW杯にも出場した。20年限りで現役引退。現在は古巣・川崎でFrontale Relations Organizer(FRO)を務めるとともに、解説者としても活躍中だ。

2/2ページ

著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント