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J1月間MVPは3戦連発の鳥栖・酒井宣福 J1最後のチャンスに懸けて見事にブレーク

飯尾篤史

鳥栖では思った通りに試合が動いていく

おそらく相手はこう来るから、自分たちはこうする――そうした事前準備と分析の有効性を鳥栖では実感しているという 【(c)J.LEAGUE】

――鳥栖は後方から攻撃をしっかり組み立てて、ポジションを入れ替えて相手を惑わせ、相手の守備組織を破壊するような攻撃を繰り出しています。このチームに来て、ご自身の戦術理解度は変化しましたか?

 これまで知らなかったサッカーを、監督やスタッフから提示していただいたと思っています。鳥栖のサッカーは複雑なように見えるかもしれないですけど、自分たちがやっていることは難しいものではなくて。技術がしっかりしてないと難しいんですけど、やることは明確で、シンプルなサッカーなんです。どうやってボールを奪い、ゴールを決めて、ゴールを守るかにすごくフォーカスしたチーム。今まで僕は、ああだ、こうだと戦術論を語ったり、味方とも「こういうときはこうしてほしい」という話をたくさんしてきましたけど、鳥栖に来て、考え方が変わってきましたね。

――難しいかもしれないですけど、「シンプルな」というところを、もう少し噛み砕いて言うと?

 自分たちがこうプレーしたら相手はこうしてくる、という予測がしやすいというか。スタッフの分析力がかなり高くて、練習でやったことをそのまま試合でやれば、うまくいくことが多いのが今の鳥栖だと思います。これまでは練習中に、ああだよね、こうだよねって言い合っていましたけど、鳥栖ではそこまで考えなくても、提示されたものにプラスアルファ自分たちでも考えるだけで、サッカーって成り立つんだなって感じさせられました。そういう意味では、分析や準備の重要性をすごく感じています。もちろん、試合では分析とは異なることも起きるんですけど、今まで自分が経験してきた以上に、鳥栖では思った通りに試合が動いていくという感覚です。

――FWには林大地選手(シント=トロイデンに移籍)、山下敬大選手、さらに外国籍選手もいますが、どう切磋琢磨してきましたか? 誰かのプレーを盗んだりもしたのですか?

 今季の鳥栖が好調なのは、FWに限らずどのポジションも競争が激しいからでもあると思います。自分が欠場したときには、代わりに出場した選手が結果を出すので、1試合も気が抜けないというか、そうした緊張感や危機感が自分を成長させてくれていると感じています。あと、盗むと言えば、大地のポストプレーは学びましたね。大地の、体をDFに預けてボールをキープするプレーは、自分にも欲しいなと思ったので。実際、大地に「どうやっているの?」って聞いて、練習で取り組んでいました。

――酒井選手ほどガッチリしていない林選手があれだけ相手DFを背負えるのには、何かコツがあるはずだと。

 まさしくその通りです。大地があれだけできるんだから、この体格の僕ができるようになれば、並大抵のDFではボールを奪えないだろうなって。これをマスターすれば、もうひとつ上のレベルに行けるんじゃないかって感じています。

大地を少しは安心させられたかな

東京五輪でも活躍した林大地とは前線でコンビを組み、切磋琢磨した。林からはポストプレーのコツを学んだ 【(c)J.LEAGUE】

――その林選手がベルギーに旅立ちました。後半戦は酒井選手への期待と責任がより一層高まります。

 その自覚はあります。そういった意味でも、この前の試合(林の壮行試合となった8月9日の第23節・FC東京戦)は「安心して行ってこいよ」って大地に示すためにも、結果を出したいと思っていて。ゴールはできなかったですけど、アシストという結果を残せて、少しは大地を安心させられたんじゃないかなって。大地のおかげで今の自分があるし、みんなで作り上げてきたチームなので、自分がチームを引っ張っていきたいという思いはより強くなりました。

――今は小屋松選手とコンビを組む機会が増えています。ふたりの補完関係も良く、相性が良さそうですね。

 それは僕自身もかなり感じていて。タイプが違うので、自分にできないことを知哉がしてくれるし、知哉ができないことを自分がやるというように、役割が明確なのがやりやすい要因なのかなと。そのおかげで僕自身も知哉もクリアにプレーできている印象があります。

――最初は左ウイングバックのポジションを争っていたふたりが、こうして2トップを組んで結果を残し始めている。それも面白い縁というか。

 本当ですね(笑)。それも鳥栖ならではだと思います。

――では最後に、シーズン後半戦の目標は?

 今年は2桁ゴールを取りたいとシーズン前から思っていたので、まずはその目標を目指したいと思います(現在リーグ戦で6ゴール)。

――これまではJ2のアビスパ福岡時代の7ゴールが最多です。今の舞台はJ1ですが、キャリアハイをなんとしてでも更新したいと。

 舞台がJ1だから、5点くらい取れればいいかな、っていう考えは僕の中にはなくて。もちろんアビスパ時代も2桁を目指してやっていて、結果7点で終わってしまったんですけど、どのカテゴリーであってもFWとして出場する以上、2桁を目指したい。どのチームでも、どのカテゴリーでも、点が取れるFWというのが自分の理想像。だから今季も結果にこだわってプレーしています。厳しくても必ず2桁を取るという意気込みでやっていきたいと思っています。

(企画・構成:YOJI-GEN)

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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