リレーに懸けた桐生の思いは報われず 悔しさを晴らすチャンスはきっと訪れる
金のためには「あのくらいのバトンパスが必要」
桐生「金以外は目指していなかったので、そのためにはあのくらいのバトンパスが必要でした」 【写真は共同】
だが、桐生はそれでも大切にしてきた信念を曲げなかった。「リレーはチームの雰囲気が大事」。土江コーチも「リレーは信頼関係なんです。リザーブやサポートメンバーも含めて、どれだけメンバーを信頼できるかが大切」と話しており、最も大切にしてきた価値観である。無情のラストを迎えた後も、桐生は仲間を励まし、責任をともに背負った。
「(バトンがつながらなかったのは)攻めた結果なので。銀、銅では満足がいってないと思いますし、金以外は目指していなかったので、そのためにはあのくらいのバトンパスが必要でしたし、仕方がないと思います」
涙は止まり、毅然とした表情で取材エリアに現れた桐生は、全員の思いをおもんぱかるように話した。この5年にわたって、日本が4継で活躍を続けられたのはなぜなのか。他の誰よりも長くチームにい続けた25歳が、その理由を深く理解しているからだ。
「『陸上人生が楽しいな』と思ったら引退だと思う」
ただ、ここで現役を終えるつもりは全くない。「このまま終わったら悔いが残る。『陸上人生が楽しいな』と思ったら引退だと思うので、その引退を目指して。いや、目指してじゃないですね(笑)」と、最後は少し笑みをこぼしながら語った。陸上人生最後の瞬間は悔し涙ではなく、笑顔で。それだけはすでに決めている。
この悔しさを晴らす日は、いつ来るか。この先もきっとチャンスは訪れるはずだ。日本陸上界は、まだまだ桐生の力を必要としている。
(取材・文:守田力/スポーツナビ)