リレーに懸けた桐生の思いは報われず 悔しさを晴らすチャンスはきっと訪れる

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金のためには「あのくらいのバトンパスが必要」

桐生「金以外は目指していなかったので、そのためにはあのくらいのバトンパスが必要でした」 【写真は共同】

 アキレス腱の状態を見ながら急ピッチで調整を進め「(山梨での)合宿が終わってからカーブをやったら、問題なかった。脚はもう大丈夫です」と、納得がいくところまで仕上げてきた。他の3人は100メートル個人で自分の力をぶつける機会があったが、桐生にはそれがない。東京五輪へ費やしてきた全ての時間と気持ちをかけた、最大の勝負の場。自らにバトンが回ってくることなく戦いが終わってしまったのは、あまりにも残酷と言うほかない。

 だが、桐生はそれでも大切にしてきた信念を曲げなかった。「リレーはチームの雰囲気が大事」。土江コーチも「リレーは信頼関係なんです。リザーブやサポートメンバーも含めて、どれだけメンバーを信頼できるかが大切」と話しており、最も大切にしてきた価値観である。無情のラストを迎えた後も、桐生は仲間を励まし、責任をともに背負った。

「(バトンがつながらなかったのは)攻めた結果なので。銀、銅では満足がいってないと思いますし、金以外は目指していなかったので、そのためにはあのくらいのバトンパスが必要でしたし、仕方がないと思います」

 涙は止まり、毅然とした表情で取材エリアに現れた桐生は、全員の思いをおもんぱかるように話した。この5年にわたって、日本が4継で活躍を続けられたのはなぜなのか。他の誰よりも長くチームにい続けた25歳が、その理由を深く理解しているからだ。

「『陸上人生が楽しいな』と思ったら引退だと思う」

 桐生は東京五輪での挑戦を終え、「いろいろ考えることもありましたし、この7、8年間東京五輪を目指してここまで来た。何を変えるかは相談中ですが、一区切りかなと思っています」と話した。日本選手権の後にも出てきた「一区切り」という言葉。長い時間をかけ、そしてたどり着いたこの舞台を、人生にとっての大きなターニングポイントと捉えた。

 ただ、ここで現役を終えるつもりは全くない。「このまま終わったら悔いが残る。『陸上人生が楽しいな』と思ったら引退だと思うので、その引退を目指して。いや、目指してじゃないですね(笑)」と、最後は少し笑みをこぼしながら語った。陸上人生最後の瞬間は悔し涙ではなく、笑顔で。それだけはすでに決めている。

 この悔しさを晴らす日は、いつ来るか。この先もきっとチャンスは訪れるはずだ。日本陸上界は、まだまだ桐生の力を必要としている。

(取材・文:守田力/スポーツナビ)

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