仏人記者が見た東京五輪とパリへの期待 今後は「東京とユーロの間の感染対策で」

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フランス『レキップ紙』のニコラ・エルベロ記者 【スポーツナビ】

 混乱とともにスタートした東京五輪が、後半戦に突入した。日本のメダルラッシュにもやや落ち着きが見られ、開幕から10日以上が経過したいま、今回のオリンピックがようやく人々の生活に溶け込み出したようにも感じている。ただ、その裏で新型コロナウイルスの感染者数が東京都内で7日連続の2000人超えと、その脅威は増す一方だということも見逃してはいけない事実だろう。

 先日、パンデミックの中で行われる五輪に対して、海外からの来訪者に意見を聞きたいという思いから、インドのミハイル・ヴァサブダさんに話をうかがった。インド国内の状況も踏まえて、客観的に大会を見た上での冷静な感想をうかがうことができ、今後の参考になる提言だったと思う。
 ただ、こうしたインタビューは単発の個人で取材を終えるのではなく、また違ったシチュエーションと文化をルーツとする別の人物にも意見を聞き、それを比較できるようにした方がいいのではないだろうか。そう考えた私は、次にフランスの『レキップ紙』で27年間にわたって取材活動を進めてきた、ニコラ・エルベロさんに話をうかがった。1994年以降に行われた、全ての夏季五輪と世界陸上を現地取材し、ウサイン・ボルトの伝記ではフランス語版の著者を務めた、一流のスポーツライターである。

 フランス国内には感染の第4波が訪れているが、3年後という遠くない将来に、パリ五輪の開催が予定されている。そんなフランスの現在おかれた状況と、今回の五輪について、エルベロ記者の意見を聞いた。

選手たちのパフォーマンスは、例年同様に高い

――これまで数多くのオリンピックを現地で取材されたとうかがっています。その経験を踏まえて、今回の五輪をどう捉えていますか?

 私は1996年のアトランタから全ての五輪で現地取材を行い、冬季も2回参加しました。98年は長野にも訪れています。今回のオリンピックは今までの誰も経験したことがない形ですね。無観客というのはこれまで考えられないことでしたし、当然ながら現地の人は少ないですね。世界中から来ている記者もいつもより断然少ないです。選手、関係者を含めて海外からだいたい4万1千人くらいが来ていると聞きました。競技場の周りにも人がほとんどいないですし、今までの雰囲気とは全く違いますが、選手たちはかなりレベルの高いパフォーマンスを見せています。今回で分かったことは、こうした形式になっても選手にとって五輪は特別なものだということです。

――柔道男子100キロ超級のテディ・リネール選手は、3連覇という偉大な記録に挑みました。

 確かにリネールは3連覇こそ逃しましたが、4大会連続でメダルを獲得しましたし、何も問題はありません。彼にとっては地元のパリ五輪も控えていますので、そこで活躍すれば最もいい形でキャリアを終えることができるでしょうね。フランス人が今回一番活躍しているのは柔道で(編集注:新種目の混合団体では金メダルに輝くなど、合計8つのメダルを獲得した)、全体としては何も悲観することはないですね。

――新型コロナウイルスのパンデミックが起きている中での五輪開催となっています。日本が行っている感染対策についてはどう考えていますか?

 世界各国で、それぞれ感染のレベルは違いますが、ヨーロッパでは外出時にマスクを必要としておらず、それは競技場の中でも同様です。そうした状況を見てから東京に来ると、ちょっとやり過ぎな部分もあるのではないかと感じます。日本の感染者数はヨーロッパと比べると低いので、余計にそう感じるところもあるかもしれませんが、日本で五輪を行っている以上、日本の組織委員会が最終的にルールを決めるのは当然ですし、何もおかしくないと思います。

――今のお話にもでてきましたが、プレーブック(大会規定)の内容についてはいかがでしょうか?

 我々のように海外から入国してくる関係者は、ほとんどが2回目のワクチン接種を完了していますし、PCR検査も何度もクリアしているので、先ほど申し上げたように少し厳しいなと感じています。ただ、それは仕方ないことですし、日本の五輪に来たみんなは、来る前からそうした形式で進められると知っていたので、何もおかしくないと思います。選手のレベルの高いパフォーマンスを見て、それを伝えるために私はこの国へ来ました。その点に関しては何もがっかりすることはないです。せっかく日本に来たので、夜にはレストランやバーにも行ってみたかったですし、日本の国民がどう東京五輪を楽しんでいるのか取材したかったですが、それが全くできないのは残念ですね。ただ、日本の組織委員会が決めたルールですので、それは我々も守るしかないのは当然です。

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