仏人記者が見た東京五輪とパリへの期待 今後は「東京とユーロの間の感染対策で」

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「安心」と「ゼロリスク」はイコールではない

満員の観衆がマスクなしで声援を送っていたサッカーの欧州選手権(ユーロ) 【Getty Images】

――フランス国内の状況をうかがいます。現在フランスでは感染の第4波が到来しているというニュースを目にしたのですが、それに対して国民はどう反応していますか?

 おっしゃる通り、国内に第4波が押し寄せているのは残念です。一方で、現在フランスでコロナによる重症患者はそのほとんどがワクチン接種を終えていない人に限られています。ですので、第4波が来ていてもそれほど危険ではないと捉えている人が多いですね。今一番大事なのは、ワクチンを打ち終える人の数をどんどん増やしていくことです。新型コロナウイルスは今後なくなっていくわけではないですし、どこにでもあるものですから、ずっと残っていくでしょう。今後こうした感染の波は何度もやってくるでしょうし、それは避けられないことです。でも、全員がワクチンを打つことができれば、危険な状態になりづらいという意味で少し安心できると思いますし、フランス国民全員がそうした状態になることが重要です。

――先日まで行われていたサッカーの欧州選手権(ユーロ)では、満員の観衆がマスクなしで声援を送っており、本来の観戦形式が戻っていたように思います。フランスを含めたヨーロッパの人々について、現在のスポーツに対する捉え方はどうなっていますか?

 まず、今回のユーロにおいて、フランスは開催地ではなかったので、あくまでも外国での出来事としてお話します。正直に言うと、今回のユーロには私も驚きました。決勝が行われたロンドンのウェンブリー・スタジアムや、ブダペスト(ハンガリー)でのシーンを見ると、とても人が多く、誰もマスクをしていない。やはり、ユーロが終わった直後にクラスターが起きましたし、それは紛れもない事実です。特にイギリスでは新型コロナウイルスの感染状況がひどいのに、こうした形式で行ったことには、多くのイギリス人も驚いたことでしょう。

 これからの大規模な大会運営で正しいと思われる1つの解答は、ユーロと東京の中間の選択をすることではないでしょうか。満席と無観客の間であれば安全を保障できると思いますし、「安心」と「ゼロリスク」はイコールではないのです。日本人はルールを守り、周りの人にも気を配る意識が強いという印象があります。(国立競技場の場合は)これだけ広いスタジアムですので、5000人から1万人の間で観客を入れ、スペースを保つように配席すれば、全く問題ないと思います。そうならなかったことは残念な気持ちもありますが、これから世界各地で行われる大会についてはそちらの方向を目指したほうがいいのではないでしょうか。

「本当に気の毒だと感じているのは……」

ニコラ・エルベロ記者「気候のコンディションはもっと蒸し暑くなると予想していたんですが、思ったより涼しいですし、良好だと思います」 【Getty Images】

――今回の五輪も、後半戦を迎えています。改めて、今回の東京五輪に期待することを教えてください。

 大まかな五輪の日程で考えると、やはり2週目の方が大事になってきます。そもそも五輪というのは陸上から始まった文化ですし、大会全体で見ても一番大事な競技なのです。もちろん、1週目にも柔道やフェンシングなどが行われていましたが、フランスにとっての重要性は比べ物にならないですね。

 陸上の話を続けると、気候のコンディションはもっと蒸し暑くなると予想していたんですが、思ったより涼しいですし、良好だと思います。選手たちにとっても問題ないのではないでしょうか。これからもレベルの高い戦いを期待できると考えています。

――最後に、こちらも改めてにはなりますが、3年後のパリ五輪で今回の東京の経験を踏まえて期待することを教えてください。

 当然ですが、五輪の準備は開幕の何年も前から行われ、とても難易度が高いものです。誰も東京がこうしてパンデミックの中での開催になるとは予想していなかったですし、この1年半にわたって苦労しながら規定の変更を行い、無事開催へたどり着かせた日本の組織力は、素晴らしいものだったと思います。世界中のメジャー大会を行う組織委員会に対して、いろいろな教訓を与えたことは間違いありません。

 東京五輪のためにさまざまな感染対策のシステムが立ち上がり、それは今後も使われていくことでしょう。パリ五輪も、東京と同じくらい組織できればうれしいですね。

 ただ、やはり寂しさを拭えないのは本来いるべきファンがいないことです。ロンドンやリオはファンの応援がすごく熱くて、まるでパーティーのような雰囲気でした。それは今回残念ながらありませんでしたが、あの熱気と東京レベルのオーガナイゼーションを両立することができれば、素晴らしいオリンピックになるでしょう。

 最後に1つ伝えたいことがあります。私たちのように世界中の記者が普段のように取材活動をできないのは、悲しいことではないと思います。私たちも選手たちも悲しむべきではないですし、こうしてコロナ禍にもかかわらず五輪を開催してくれたことを喜んでいますし、深く感謝しています。

 本当に気の毒だと感じているのは、日本の国民のみなさんと、日本の選手です。自分の国で五輪が行われるのはこれ以上ないほど特別なことで、日本の素晴らしい選手が競技を進める中、自国の人々の声が聞こえないのはかわいそうだと思います。

 併せて、ずっと東京五輪のサポートをしてくれた一般の方々が、自分の国の選手を応援できず、世界のトップ選手も自分の目で見られないのは本当に寂しいことです。それくらい、日本のみなさまに申し訳ない気持ちでいっぱいです。

(企画協力・通訳:ブレット・ラーナー、取材・文:守田力/スポーツナビ)

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