バド渡辺/東野組、世界2位撃破の底力 準決勝で中国2強の一角崩しへ

平野貴也

ガッツポースする渡辺勇大(左)、東野有紗 【写真は共同】

 種目初のメダルが見えてきた。東京五輪のバドミントン競技で混合ダブルスに出場している渡辺勇大/東野有紗(日本ユニシス)は28日、準々決勝に臨み、世界ランク2位のデチャポン・プアバラヌクロ/サプシリー・タエラッタナチャイ(タイ)を2-1の逆転で破って準決勝進出を決めた。この種目で日本勢が4強入りするのは初めてだが、東野は「2人の目標が金メダルなので、日本で最初に準決勝に入ったとかはあまり意識せず、2人で楽しんでプレーしていきたいです」とさらに先へ勝ち進む意欲を示した。

不利な“風下”で見せた異なる対応策

 苦しい試合を勝ち切る底力が見えた一戦だった。勝因は、不利な中での戦い方。第1ゲームは、相手が仕掛けてきたスピードの速い展開に押し切られた。しかし、ゲームを落とす中でも、次につながる収穫をもぎ取っていたことが、逆転につながった。

 選手の話によれば、コート内では縦風を感じるという。渡辺/東野が最初に入ったコートは、いわゆる風下。渡辺は「思い切り、我慢だった」と振り返った。相手は、女子のサプシリーが身長169センチと長身で、リーチの長さを生かした素早いタッチで返球。相手の対応が遅れると、男子のデチャポンが強烈なスマッシュをたたき込んでくる。渡辺がどうにか空いているスペースに返球しようとしたが、狙い過ぎてミスになるなど失点が続いた。それでも終盤には東野が機動力を生かしてネット前で左右に走って相手のペースに食らいつき、少しずつスコアをばん回。15-21でゲームを落としたが、粘りを見せた。

 第2ゲームは「風上」に立ち、渡辺が明らかにスピードアップ。素早いフットワークで早めにシャトルの落下点に入り、終始、リードする展開。東野も、女子では珍しい両足跳びのジャンピングスマッシュを打ち込むなど攻勢で21-16と押し切った。

女子では珍しい両足跳びのジャンピングスマッシュを打ち込む東野(左) 【写真は共同】

 勝負のポイントは、ファイナルゲームの前半。再び風下のコートに立ち、序盤は東野が相手のスピードに必死に食らいつこうとしてミスが出る場面もあったが、渡辺が攻撃面で工夫を見せた。風上の第2ゲームとは異なり、いきなり強打を打ち込むのではなく、フェイントを先に入れて相手の足を止めてから強打。この展開で、疲労もある相手ペアの足が徐々に止まってきた。苦しくなる風下で、1ゲーム目で東野がスピード勝負で対抗して粘ったのとは異なる対応策を試合中に見つけられたことも大きかった。相手の球筋が少しずつ見えてきたと話した渡辺は、スマッシュレシーブでも次第に相手のいないスペースへコントロールできるようになり、相手の連続攻撃を遮断。10-10から粘った場面で相手の強打がネットにかかり、コートチェンジを迎える際の11点目を奪った瞬間、渡辺、東野がともに大きなガッツポーズを見せた。この1点の重みを渡辺はこう語った。

「1ゲーム目を取られた方のコートだったので、相手に少しでもプレッシャーがかかるかなという意味で、11点目を先に取ることが大事でした。この1点を取れたので、後半リードからスタートで、気持ち的にも少し楽になりますし、のびのびと3ゲーム目の後半をできていたので、分岐点と言えば、そこがポイントだったのかもしれないです」

 苦境を切り抜けると、ファイナルゲーム後半は、渡辺がフェイントを警戒している相手ペアの間をノータッチで射貫く強打をたたき込むなどペースアップ。21-14で押し切り、準決勝進出を決めた。

頭1つ強い中国の2ペア

 この日の相手は世界2位で、2019年世界選手権の銀メダリスト。大きな1勝であることは、間違いない。しかし、この種目では、実は中国の2ペアが圧倒的に強い。コロナ禍で中国勢が出場していない大会のポイントも加算されている現在の世界ランクでは、中国勢は1位と3位だが、間違いなく優勝候補の2強だ。

 準決勝では世界ランク3位の王イ律/黄東ピン(中国)と対戦する。過去の対戦成績は、1勝9敗。厳しい戦いになることは、覚悟しなければならない。彼らより先に試合を行ったため、勝利した時点では準決勝の相手が決まっていなかったが、渡辺は「今のゲームのように、泥臭く。何でもいいから、勝てるゲームをやりたいなと思っています」と食らいつく構えを示した。

 2度目の金星を挙げれば銀メダル以上が確定。敗れても3位決定戦で、この種目で日本勢初となるメダル獲得に挑戦できる。そういう意味でも、今日の1勝は大きい。渡辺/東野が世界の頂点を見据える立場に立ったのは、2018年の全英オープン。春の世界一決定戦で中国ペアを破って初優勝を飾った。東京で、もう一度世界を驚かせられるか。29日の準決勝で中国2強の一角崩しに挑戦する。
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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