スケートボード界の歴史を作った堀米雄斗 本当は「誰よりも熱い」男がつかんだ頂点

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土壇場で決めて見せた、初公開の大技

新種目スケートボード・ストリート男子で金メダルを獲得した堀米雄斗 【Getty Images】

 自国で初の開催となるスケートボードで、日本のライダーが、初代王者となって地元に錦を飾る――。2016年に五輪種目に追加されることが正式決定されてから、関係者の誰もが夢見てきた光景ではないだろうか。それから5年が経った7月25日、世界ランク2位の堀米雄斗(XFLAG)は、その夢を現実として私たちに見せてくれた。

 試技は全部で7回。持ち時間45秒間の滑りを競う「ラン」を2回と、一発勝負の大技の完成度を争う「ベストトリック」5回を滑り、それぞれの試技を10点満点で採点する。そして、そのうち点数の良い4回分を合計で、順位を決めるのがストリートだ。コースの至るところに階段(ステア)や手すり(ハンドレール)など、まさに街中の風景を再現した障害物(セクション)を巧みに生かし、独自のひらめきによって己を表現することが求められる。会場となった有明アーバンスポーツパークと同じ、東京都・江東区で生まれ育った堀米は、まさに「我が街」をゆくかのようにセクションと調和した。
 8人が通過する予選を6位でクリアすると、決勝ではランの試技で1、2本目ともに細かいミスがあり、点数が伸び切らず。だが、6月に世界選手権を初めて制した時もベストトリックで世界ランク1位のナイジャ・ヒューストン(アメリカ)を逆転しており、「心の中では焦ってたけど、トリックがある」とすぐに気持ちを立て直した。1本目で9.03をマークすると、ラスト3本は圧巻のパフォーマンスを見せた。

 まずは3本目で、大会では初めて披露するという大技にチャレンジ。階段12段分の長さがあるハンドレールに、体を1回転半横に回しながら飛び移る「ノーリー270ボードスライド」を、完璧に着地した。続く4本目は、さらに難易度を上げたトリックを華麗に乗りこなした。ラストの試技も無事にメイク(成功)し、3本連続で9.30以上の高得点をたたき出す。この時点で大きく優勝をたぐり寄せた堀米に、その後試技を終えたナイジャが歩み寄り、抱擁を交わす。世界最高峰のコンテストである「STREET LEAGUE」で5度王者に輝いた、生きる伝説からの祝福を受け、スケートボードの初代五輪チャンピオンが誕生した。

「いまだに自分がオリンピックの舞台にいることが信じられない。シンプルなんですけど、本当にすごくうれしいです!」

 スケートボードの歴史に残る偉業を成し遂げた男は、素朴な言葉で喜びを噛み締めた。世界ランク3位でメダル獲得も期待された白井空良(ムラサキスポーツ)は9位、青木勇貴斗(ボードライダーズジャパン)は17位で、予選突破はならなかった。

一番の才能は「誰よりもスケートボードを好きになったこと」

早川大輔コーチ「雄斗は昔から、人には落ち着いているように見せるのが上手いんです。でも、中身は誰よりも負けず嫌いですし、めちゃくちゃ熱い」 【Gettyimages】

 6歳から競技を始めた堀米は、地元・江東区にある大島小松川公園で、かつてスケートボーダーだった父の亮太さんとともに滑ることが大好きだった。2014年、15年に一般社団法人日本スケートボード協会(AJSA)主催プロツアー戦の年間グランドチャンピオンを獲得した後、世界に認められるトップスケーターを目指し、17歳で渡米。18年にSTREET LEAGUEで日本人としては初の優勝を飾り、着実に本場での地位を築き上げてきた。昨年には、ロサンゼルスにスケートパーク付きの自宅を購入。新型コロナウイルスの影響で近郊のスケート場が閉鎖された時も「新しい技を練習したり、自分の滑りの撮影をしていた」と、飽くなき向上心で己を磨き続けてきた。

 そんな堀米には、どこか「求道者」のような雰囲気を感じていた。会心のトリックを決めても、大げさに喜ぶことは少なく、常に滑りの中で自分の新しい表現方法を探している。22歳とは思えないほど、クールで冷静な青年。だが、13歳の頃から滑りを見続けてきた、日本代表の早川大輔コーチは、堀米の「本当の顔」を教えてくれた。

「雄斗は昔から、人には落ち着いているように見せるのが上手いんです。でも、中身は誰よりも負けず嫌いですし、めちゃくちゃ熱い。きょうもランが上手くいかない時にフラストレーションがあったけど、頑張って心を落ち着けていました。誰よりもスケートボードが好きになったこと、それが雄斗の一番の才能なんだと思います」

 まだ堀米が中学生だった頃、アメリカの大会にエントリーするために、現地での引率を引き受けたのが早川コーチだった。それほどまでに力になりたいと思わせる滑りとスケートボードへの情熱を、堀米は持っていたのだ。そしてこの日、教え子が悲願を勝ち取り、早川コーチは「たくさんの思い出がよみがえってきて……。雄斗を世界一のスケーターにしたかった。めちゃくちゃうれしいです」と、最高のうれし涙を流した。

スケートボード特有の文化を味わってほしい

メダリストとなった3人。同じ大会に出場する選手たちはライバルでこそあれ、決して敵ではない 【Getty Images】

 元々ストリートカルチャーとしてアメリカで広まったスケートボードは、競技であっても自己表現の色合いを強く残す。だから、同じ大会に出場する選手たちはライバルでこそあれ、決して敵ではない。滑りによって表すそれぞれの個性を称え、刺激を受けながら、さらにパフォーマンスを高める糧としていく。

 試合後の記者会見でも、メダリストとなった3人が会見途中にセルフィーを撮り合い、笑顔を浮かべていたシーンがとても微笑ましかった。無観客での開催となり、パフォーマンスと空気感を生で味わう機会がなくなってしまったのは残念だが、テレビ越しでもスケートボード特有のカルチャーに心を動かされた方は多いのではないだろうか。

「今回の五輪は、スケートボードを見たことがない人たちも見るきっかけになったのではないかと思います。これをきっかけに、スケートボードの楽しさや奥深さを伝えていきたい」と、22歳の金メダリストは語った。26日は女子のストリートが予定されており、8月4日にはもう1つの競技であるパークの戦いも幕を開ける。ぜひ「メダル」という目に見える結果だけでなく、この競技が持つ魅力を存分に味わってほしい。

(取材・文:守田力/スポーツナビ)
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