連載:なでしこジャパン、世界一から10年目の真実

世界一から10年、川澄奈穂美が語る米国でのプレー、なでしこ、将来のこと

栗原正夫
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川澄(中央)は35歳となった現在もアメリカ女子サッカープロリーグでプレーを続けている 【写真:本人提供】

 豊富な運動量とスピードを武器に、なでしこジャパンに欠かせないメンバーとして11年ドイツW杯優勝、12年ロンドン五輪銀メダル、15年カナダW杯準優勝などに貢献した川澄奈穂美。近年の女子サッカーをけん引してきた1人でもある彼女は、35歳となった現在もアメリカ女子サッカープロリーグのNWSLのNJ/NYゴッサムFCに所属し第一線でプレーを続けている。

 NWSLの試合は日本にいても動画配信アプリなどでライブ視聴が可能だが、実況者は川澄を紹介するたびに、敬意をこめて「W杯優勝経験者」であることを付け加えるのを忘れない。

 だからだろうか、自分から話すことも聞かれることもほとんどないというが、スタッフや関係者はもちろん、年の離れたチームメイトや小中高生のファンまでが、川澄が成し遂げてきたことを理解し、リスペクトしてくれる。その感覚は、日本にいたときとは少し違う。

「なでしこジャパンがW杯で優勝したのは、10年前のこと。みなさんの記憶から消えているとは思いませんが、時が立てば(記憶は)薄れていくじゃないですか。日本でもW杯優勝の直後は一時的にすごく注目されているのを感じました。でも、ブームが去った日本からアメリカに来てみて、こっちでは女子サッカーがブームではないんだと気づかされたというか。ここ数年は女子サッカーW杯最多優勝国でプレーしている中で、W杯で優勝したことがどれだけ価値あるものかということを改めて感じさせられています」

W杯優勝から10年経ったいま思うこと

優勝して一番うれしかったことは何かと聞けば、川澄は「優勝そのもの」だと即答した 【Photo by Mike Lawrence/ISI Photos/Getty Images】

 なでしこジャパンが11年ドイツW杯で優勝した際の決勝の相手がアメリカなら、その後のロンドン五輪、カナダW杯で日本の前に立ちはだかったのもアメリカだった。その激闘を通じて日本のサッカーファンがワンバックやモーガン、ロイドやラピノーという選手を知ったようにアメリカのファンが“カワスミ”のことを覚えているのは、ある意味で当然かもしれない。

 ドイツW杯での優勝から10年が経ち、その決勝で下したアメリカで暮らすことでW杯を制したことの重みを感じている様子は、どこか皮肉めいているが、川澄はすべてを受け入れて今もボールを追い続けている。

 優勝して一番うれしかったことは何かと聞けば、川澄は「優勝そのもの」だと即答した。楽しいことばかりではなかったが、仲間と切磋琢磨し、ときには衝突しながらも取り組んだ過程や優勝という事実が残っていることが何より、だという。

 それだけに日本では、当時のなでしこジャパンがそれまで不遇だった女子サッカーをメジャーにしようと奮闘し、結果を残しながらも、思うような発展につながらなかった状況には寂しさを感じているかもしれない。
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著者プロフィール

1974年生まれ。大学卒業後、映像、ITメディアでスポーツにかかわり、フリーランスに。サッカーほか、国内外問わずスポーツ関連のインタビューやレポート記事を週刊誌、スポーツ誌、WEBなどに寄稿。サッカーW杯は98年から、欧州選手権は2000年から、夏季五輪は04年から、すべて現地観戦、取材。これまでに約60カ国を取材で訪問している

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