井上尚弥とダスマリナスを知る“2人の木村” 挑戦者のパンチは「独特のタイミング」

船橋真二郎
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井上尚弥「まずは、ダスマリナス(写真右)の一発に気をつけながら崩していくこと。攻め急がずに、ゆっくりと、ゆっくりと、調理しようかなと思っています」 【Gettyimages】

 井上尚弥(大橋・20戦20勝17KO/28歳)のラスベガス2戦目がいよいよ明日、日本時間20日に迫った。保持するWBAスーパー、IBFの世界バンタム級のベルト2本を懸け、ヴァージン・ホテルズ・ラスベガスのザ・シアターにIBF1位、WBA8位のマイケル・ダスマリナス(フィリピン・33戦30勝20KO2敗1分/28歳)を迎える。

 海外のオッズは井上の圧倒的有利と出ている。ダスマリナスに世界的強豪との対戦経験がないこと、“モンスター”への大きな評価と期待が予想を後押ししたのだろう。
 井上がバンタム級で目指し、この先に見据えているのが世界4団体統一。ただし、井上がスキを見せることは決してない。6月4日に行われた合同オンライン会見で「チャンスがあったら、早いラウンドから倒しに行く気持ちはあるか」と問われ、「そんな気持ちはない。いつも通り」とピシャリと否定。試合のポイントを次のように話した。

「まずは、ダスマリナスの一発に気をつけながら崩していくこと。攻め急がずに、ゆっくりと、ゆっくりと、調理しようかなと思っています。しっかり組み立てれば、いつかは捕まえることができる相手だと思っているので」

 昨年10月、ラスベガスでジェイソン・マロニー(オーストラリア)を7回KOで下した時は無観客開催。今回は有観客で行われる。予想通り、“モンスター”が圧倒的な強さで本場のファンを痺れさせるのか。2019年3月、IBF4位として同3位のケニー・デメシーリョとの同胞対決を制し、挑戦権をつかんでから2年。ずっと、この日を待ちわびてきたはずのサウスポーにはチャンスはないのか――。

 試合の展望、見どころを探るため、“2人の木村”に話を聞かせてもらった。

井上戦について、“2人の木村”に話を聞いた

日本人ボクサーで唯一、ダスマリナスと対戦経験がある木村隼人さん(写真左)と井上尚弥のスパーリングパートナーのひとりに指名された木村蓮太朗選手(写真右)に話を聞かせてもらった 【船橋真二郎】

 ひとりは日本人ボクサーで唯一、ダスマリナスと対戦経験がある元日本バンタム級暫定王者の木村隼人さん。現在は仕事の傍ら、古巣のワタナベジムで週2回、トレーナーも務める。15歳の時にタイでプロデビュー。韓国、フィリピンを拠点に活動したこともあるという異色の経歴を持ち、韓国スーパーフライ級王座を奪取したこともあった。

 対戦したのは7年前、2014年7月の後楽園ホール。2回に左アッパーでダウンを奪われ、判定負けを喫した。「パンチのタイミングが独特。微妙にズレて来る」という木村隼人さんは「不利は不利ですが、言われているほど可能性が低いとは思っていないです」と、ダスマリナスの“一縷(いちる)の勝機”にも言及した。

 もうひとりは木村蓮太朗(駿河男児)。まだプロ4戦(4勝3KO)ながら、静岡・飛龍高校、東洋大学で88戦72勝26KO16敗のアマチュアキャリアがあり、大学1年時にバンタム級で全日本選手権優勝1度、大学2年時、4年時にはライト級で国体優勝2度の実績を残した。静岡のジムから「静岡県初の世界チャンピオン」を掲げ、将来を嘱望されるフェザー級の大型ルーキーである。

 木村蓮太朗は今回、井上のスパーリングパートナーのひとりに指名され、合計36ラウンドにわたり拳を交えた。そのうち8ラウンドの通しが2度という。これまで井上の一方的な展開になり、予定ラウンド数の途中で切りあげた、という証言ならいくつもあったが、ひとりで8ラウンドを務めきった例は聞いたことがない(5年前、井上は試合前のオーバーワークを要因とする腰痛を起こしてから、スパーリングは1度に4ラウンド程度までに押さえてきたこともあるが)。

 井上がもうひとつポイントに挙げていたのが、ダスマリナスが長身のサウスポーであること。過去にプロで井上が対戦したサウスポーは2人。オマール・ナルバエス(アルゼンチン)は身長159センチ、ファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)が井上とほぼ同身長の165センチ。それぞれ2ラウンド、1ラウンドで倒し、圧勝している。

 ダスマリナスは公称170センチとされているが、「僕は169.7センチ(笑)」という木村隼人さんによると「自分より少し高かった」そうだから、実際には170センチ以上あることになる。一般にオーソドックス(右構え)はサウスポーと対峙(たいじ)した時、遠く感じるとされる。ダスマリナスは手足も長い。井上はどう戦うのか。

 まずは身長174センチのサウスポー、2階級上の木村蓮太朗の話に耳を傾けよう。大学時代はさらに上のライト級だった木村蓮太朗から見れば、井上は想像以上に小柄だったが、パワー、スピードともに想像を超えていたという。
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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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