苦しみ、もがき、進んだ萩野公介の5年 たどり着いた東京五輪での挑戦権

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背負ってきたものを出せるレースを

「水泳も辞めたいというか、逃げ出した時期もあった」とレース後に話をした萩野。インタビューでは時折、笑顔を見せながらリオ五輪後の5年を振り返った 【写真は共同】

 萩野は、リオ五輪の後、長いトンネルを彷徨(さまよ)ってきた。萩野が「数年前から振り返って、全部をああすれば、こうすればと違う選択をしていれば、違う人生があると思うけど、自分には、そんなことはできなかった。これが今の萩野公介だと思って、背伸びをせず、これが今の実力だと思って臨んでいる」と言えば、平井ヘッドコーチも「分岐点はたくさんあって、どれだけ交差点があったか分からないくらい。これが未来かと思ったら、元の角に戻ってきたというようなこともある」とトンネルから抜け出そうともがいた日々を、迷い込んだ道に例えた。

 元には戻っていない。戻らないのかもしれない。しかし、萩野は、今の自分を受け入れて前に進もうとしている。そこには、栄光も苦しみも、成功も失敗もすべてを伴って進む力強さがある。5年の歩みについて聞かれた萩野は言った。

「水泳も辞めたいというか、逃げ出した時期もあったし、水の中に入ることすら嫌な時期もあった。本当にいろいろなことを経験してきた。そういうことを何も考えずにただ泳いでいれば、もっと早いタイムとかは出せたかもしれないけど、タイムじゃない、背負ってきた人生というか、いろいろなものが僕の後ろにはあるので、そういったものを出せるレースをこれからもしていけたらと思う」

 課題はあるが、間に合った。もう一度、五輪という舞台で世界に挑戦することができる。200メートル個人メドレーは、スピードを要する種目だが、萩野はもともと400メートルで強いタイプで、スプリンターではない。「持久力をないがしろにしてスピードの練習をしてきた部分もある」と話すように、スピード強化もさることながら、やはり4泳法で、自身が納得できる泳ぎを手にすることが重要だ。平井ヘッドコーチは、400メートルを辞退した後も、練習では本来の良さを引き出すために400メートルのメニューも組み込んでいたと明かす。

 苦しみ、もがき、進み、挑戦権は手に入れた。平井ヘッドコーチは一つの試練を越えた萩野にエールを送るように話した。

「ようやく、気持ちや力を爆発させられるようになってきた。パフォーマンスのレベルで言うと、まだ2012年のロンドン五輪に出場した高校生の時くらいの記録(※決勝で1分57秒35)。この5年くらいはモヤモヤして、自分の思っている泳ぎや考えと、アウトプットにギャップがあったが、ようやく一致したかなと思う。今日は、タッチの差で(瀬戸に)負けたけど、すがすがしい顔をしていた。これからだなと。これからが彼の本当に力を発揮できるタイミングではないかと思う」

 盟友の瀬戸と挑む男子200メートル個人メドレー。苦しみのトンネルを突き抜けた萩野の泳ぎが期待される。

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