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あの日、流した涙を忘れない
F1参戦・角田裕毅のターニングポイント
【Yuki Tsunoda】

 今回F1に乗れることになって、改めて思うのは両親に対する感謝の気持ちだ。僕は子どものころから動くのが好きで、水泳とかサッカーとかマウンテンバイクとか、スポーツなら何でもやっていたし、スポーツじゃないけどピアノもやっていた。いま思えば、父と母は僕が興味あることをやらせてくれていたんだと感じる。そして、カートをやり始めたきっかけも父の影響だった。父はモータースポーツが好きで自分でもジムカーナをやっていたほど。ある日、連れられて行ったサーキット場で、僕は体験カートをやらせてもらった。それが初めてだった。実はそのときポケバイも体験したんだけど、2つやってみて「カートのほうが楽しい」と僕が言ったらしい……自分では全然、覚えてないけど(笑)。


 でも、カートが嫌になった時期も……メチャメチャあった。


 たとえば7歳ぐらいのときかな。カート場の待ち時間にゲームをやっていたら、父に「もっとレースに集中して」みたいなことを言われてゲームを取り上げられ、そこで『もう嫌だな』って感じてしまった。それから父は僕をもっと上達させるために、どんどん厳しくなっていったし、いろんなことで怒られた。正直、15歳のころまでは父にもあまり感謝してなかったし、父が嫌いな時期もあった。まさに“ザ・反抗期”。その真っ只中だったんだと思う。


 学業の面では、父だけでなく母も厳しかった。モータースポーツで成功しなかった場合を考えて「勉強をしなさい」と常に言われ続けていた。僕の中学校は公欠扱いがなかったので、レースが終わればその日中に帰宅して学校の支度をして、必ず学校に行って、授業に出席して、勉強してテストに臨むという生活の繰り返しだった。正直辛かったし、決して好きじゃなかったけど、それなりに勉強を続けていた。


 当時は両親に感謝の気持ちを抱けなかったけど、いまとなっては真逆の感情がある。あのころ、厳しくされたり、叱られたり、いろんなことを教えてくれたおかげでいまの僕があるんだと思える。本当にすごく感謝している。

サーキットに入ったら、ハミルトン選手もアロンソ選手も同じ1人のドライバー。敵だと思っている。

 僕自身、ここまで早くF1に乗れるとは思ってなかった。日本人ドライバーとしてだけじゃなく、海外のドライバーと比べても、いまいるドライバーより最短ルートで来ている。


 7歳のときに富士スピードウェイで初めて実際にF1を見に行ったとき、ルイス・ハミルトン選手やフェルナンド・アロンソ選手が走っていた。僕はそのときも憧れとかじゃなくて「いつか、こういうドライバーたちとレースしたい」なんて思っていて、そういう気持ちはいまも変わらない。ハミルトン選手はすでに伝説の人だし、一緒に走るっていうのがすごく光栄で信じられないけど、サーキットに入ったら、ハミルトン選手もアロンソ選手も同じ1人のドライバー。敵だと思っている。


 それはいまのF1で一番速い、一番の強敵だと思っているマックス・フェルスタッペン選手や、僕が所属するアルファタウリでチームメイトのピエール・ガスリー選手に対しても同じ。どれだけフェルスタッペン選手に対応できるか、どれだけ戦えるのかを早く知りたい。ガスリー選手は僕が日本でF4を走っていたころ、日本のトップカテゴリーのスーパーフォーミュラで活躍していた選手だけど、彼からいろいろ吸収できればいいなと思う一方で、同じマシンに乗っているので、いつかは倒さなければならない、一番のライバルでもあると思っている。


 F1という世界では、結局は“速さ”を求められる。“速さ”だけじゃないといくら言っても、“速さ”を見せつければインパクトも出せるし、“速さ”さえあればレース序盤で抜かれたり離されたりしても、後半でその部分を巻き返すことができる。ただ、ここぞという場面での“速さ”を示すのが実は一番難しい。自分の最大の強みはその“速さ”なので、それに加えて自分に足りないものをどんどん吸収していきたい。

【Peter Fox/Getty Images】

 そう言えば、このオフにやったオンライン会見で、僕の目標が「F1チャンピオンに史上最多タイの7回以上なる」みたいな感じで大きく出ちゃったけど、あれはそういうニュアンスで言ったわけじゃないんだ。


 まだF1で1レースもやってないのに、そんなこと言えるわけない(苦笑)。


 僕がいま思っているのは、まず一戦目で自分が持っている最大限のパフォーマンスをすること。そしてシーズンを通じて1つでも多くのポイントを獲ること。F2と同じく、F1に上がってもシーズン序盤から中盤まではミスや失敗をいっぱいするだろうけど、そこで新しい発見をしてたくさん学んでいきたい。会見でそんな内容を話した後で「角田選手の野望は?」みたいな質問があったので、「ルイス・ハミルトンと同じ7回、チャンピオンを獲るとかですかね?」と返事したのが大きく見出しになっちゃった。正確に言うと、いまはとにかく目の前のひとつひとつに集中していきたいのが本音で、その積み重ねの結果として“野望”が叶っていたら嬉しいなという感じだ。


 この先、僕にはどんな景色が見えてくるんだろう。実力をつけて、F1界を代表するレーサーに成長したいし、いまとは違ったプレッシャーだったり、モチベーションになっていくはずで、ファンの皆さんの期待もさらに大きくなるかもしれない。


 だからこそ今年、2021年に初めてF1に乗るときの気持ちを、ずっと忘れないでいたい。ルーキーのいまの気持ちを大切にして、これからも思う存分、失敗して、そこからいっぱい学んで、楽しんでいきたい。


 4年前の最終選考会に落選したときのような涙はもう、これから一生流すことはないと思う。あの日、流した涙を決して忘れない。でも、これから涙を流すとしたら、どんな涙だろう……。


 現実的に思うのは、最初に優勝したときかな? F1までたどり着くのもとても難しいことだけど、これからますます険しい道になる。優勝するのは本当に大変なことなので、これから僕が流すとしたら、それは“悔し涙”ではなく、きっと“嬉し涙”なんだろう。

ザ・プレーヤーズ・トリビューン ジャパン
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ザ・プレーヤーズ・トリビューン(The Players' Tribune/TPT)は元ニューヨーク・ヤンキースのデレク・ジーターによって設立され、グローバル展開をしている新たな形のスポーツメディアです。第三者のフィルターを介することなく、世界中のアスリート自らが言葉を発信して、大切なストーリーをファンと共有することを特長としています。TPTでは、インパクトのある文章や対談、ドキュメンタリー映像、音声などを通じて一人称で語りかけ、新たなスポーツの魅力と視点を提供します。

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