連載:高校サッカー選手権 あのヒーローはいま

カズと出会い、クジで東海大一に編入… バナナシュートで伝説となったアデミール・サントス

栗原正夫
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1986年度の65回大会で初出場の東海大一(静岡)を初優勝へ導いたアデミール・サントス。「バナナシュート」は、30年以上たったいまでも語り草だ 【栗原正夫】

 1986年度の65回大会で初出場の東海大一(静岡)を初優勝へ導いたのが、ブラジル人留学生のアデミール・サントス(現在は三渡洲アデミールに改名、元清水エスパルスなど)だった。5試合5ゴールで得点王に輝く大活躍。チームメートにはのちにJリーグで活躍し、日本代表入りしたDF大嶽直人(横浜Fなど)やMF澤登正朗(清水)らがいたものの、当時まだ珍しかった外国人留学生ということもあって圧倒的な存在感で主役の座を独り占めにした。

 同じく初出場だった国見(長崎)との決勝戦。ゴール正面約25メートルの位置で得たFKを直接沈めた「バナナシュート」は、30年以上たったいまでも語り草となっている。32分、絶好の位置で得たFKのチャンスにサントスが左足を一閃すると、ボールは6枚の壁を越えて、きれいな弧を描きながらゴール左スミに吸い込まれた。

「いまでもはっきり覚えています。プレッシャーもあったけど、あの位置は得意だったので、早く蹴りたくてウズウズしていた。カーブをかけてポストのギリギリをねらえば、GKは(ポストに)ぶつかるのが怖いので反応が遅れる。蹴った瞬間に入ると思った。入ったあとは頭が真っ白。喜んでピッチを走り回ってしまい、体力を半分くらい使っちゃいました(苦笑)」

家族を助けるために絶対に優勝する必要があった

1986年度の65回大会決勝戦、サントスのFKで先制した東海大一は国見に勝利。大会を通じて無失点の‟完全優勝”を成し遂げた 【写真:本人提供】

 初戦から準決勝までの4試合をすべて3-0で勝ち上がってきた東海大一だったが、国見との決勝の序盤は思ったような攻撃ができずに苦しんだ。そんななか、均衡を破ったのがサントスの1発だった。

 サントスのFKで先制した東海大一は、終盤にも1点を追加し、2-0と国見に勝利。大会を通じて無失点の‟完全優勝”を遂げた。

いまはなき旧国立競技場は4万人を超える大観衆で埋まっていた。遠くブラジルから来た留学生にとっては、何もかもが驚きだった。

「国立のピッチに立ったときは、まず観客の多さに驚きました。甲高いチアホーンの音は、いまも耳に残っているし、緊張で口から心臓が飛び出そうだった。高校生の試合で、スタンドがいっぱいになるなんてブラジルでは考えられない。当時はJリーグができる前で、日本リーグよりも高校サッカーが人気だった。優勝したあとは、どこに行っても人だかりができてしまい、普通に歩くことも難しかった。私のチリチリの髪の毛が珍しかったのか、みんな引っ張り抜いて下敷きに張ったりしていました(笑)」

 一方でサントスは、国見との決勝は体調が万全でなく、とても試合に臨めるコンディションではなかったとも振り返る。
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著者プロフィール

1974年生まれ。大学卒業後、映像、ITメディアでスポーツにかかわり、フリーランスに。サッカーほか、国内外問わずスポーツ関連のインタビューやレポート記事を週刊誌、スポーツ誌、WEBなどに寄稿。サッカーW杯は98年から、欧州選手権は2000年から、夏季五輪は04年から、すべて現地観戦、取材。これまでに約60カ国を取材で訪問している

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