連載:アスリートに聞いた“オリパラ観戦力”の高め方

廣瀬悠・順子が組む「公私の二人三脚」 パラ柔道で育まれたおしどり夫婦の心得

C-NAPS編集部

視覚障害者柔道の廣瀬悠(はるか)・順子(じゅんこ)夫妻は、パラスポーツ界きってのおしどり夫婦。今回は競技観戦のポイントに加え、夫婦で競技に臨む心得についても聞いた 【写真:本人提供】

 試合や練習での畳の上はもちろん、取材や私生活においても常に仲睦まじく肩を並べる2人がいる。2020年9月に視覚障害者柔道で東京パラリンピック出場をそろって内定させ、2大会連続で夢舞台に臨む廣瀬悠・順子夫妻(SMBC日興証券)だ。

 公私ともに妻を引っ張る夫の悠は、小学2年で柔道を始める。高校時代にはインターハイに出場するほどの選手に成長したが、緑内障により視力が低下。一方、妻の順子は小学5年で柔道を始め、同じく高校時代にインターハイに出場したものの、大学時代に病気の合併症により視野の中心が見えなくなった。ともに視覚障害者柔道に転向した2人は遠征先のアメリカで出会い、同じ競技に打ち込むうちに惹(ひ)かれ合っていく。そして、リオデジャネイロパラリンピック前年の2015年に結婚。2人で出場したリオ大会では、妻・順子が銅メダルを獲得した。

 競技・私生活の両面で時間をともにする、二人三脚の夫婦の強さは「オンとオフを切り替えないこと」。辛い練習に歯を食いしばりつつも、常に“楽しく”柔道に取り組めているのは、互いに励まし合い、切磋琢磨(せっさたくま)できる関係性を築けているからに他ならない。公私ともにパートナーである2人は、東京パラリンピック本番に向けてどんな日々を過ごしているのか。そして、柔道を通して伝えたいこととは――。競技の楽しみ方や観戦のポイントとともに、夫婦円満の秘訣も聞いた。

視覚以外の情報もフル活用して一瞬の隙をつく競技

視力が低いからこそ、他の感覚が研ぎ澄まされる視覚障害者柔道。勝敗を決するのは、まさに一瞬の出来事だ 【写真は共同】

悠(※敬称略。以下、同) 視覚障害者柔道は、健常の柔道とルールはほとんど一緒なんです。投げ技、締め技、関節技、あるいは20秒の抑え込みを決めれば一本となり、その時点で勝利が確定します。技ありを2回獲得すれば、それも一本となります。4分間で技ありを多く獲得した選手が勝利する点も同じですね。また、消極的な姿勢だと指導を受けます。3回指導を受けると反則負けになるので、視力が低い中でも積極的な攻めの柔道を展開することが求められるんです。

 一方で健常の柔道と異なるのは、お互いの選手が組んだ状態から試合が始まること。組んでいる手を「釣り手」と言いますが、アームレスリングのように試合開始まで釣り手に力を入れてはいけないのがポイントです。試合開始と同時に一気に力を入れて仕掛けるので、瞬間的な技の攻防は激しいですね。

 一瞬で試合が終わることも多く、健常の柔道よりもスピーディーな展開が魅力だと思います。一発でやられることがないように、選手は釣り手の感覚で相手の位置を把握したり、動きを予測したりする必要があります。相手の息遣いなど、視覚以外の情報をフル活用して戦う点が競技の特徴ですね。

 また、選手によってタイプがあって、最初から攻める選手と、いったん守りでかわしてから仕掛ける選手に分かれますね。僕たちは守りから入るタイプ。しっかりと相手の攻撃を防御したうえでペースを握り、一瞬の隙をつく戦い方を好みます。なので、観戦する際は試合からひと時も目を離さずに、僕たちが守りから攻撃に転じて牙をむくシーンをしっかり見てほしいですね。

夫婦ともに防御から一瞬の攻めに転じるスタイルなだけに、足腰強化は常に重要な課題。そのためにもランニングは欠かせない 【写真:アフロスポーツ】

順子 視覚障害者柔道のカテゴリーは、階級で決まります。男子7階級・女子6階級の計13階級です。女子に関しては78キロ超級がないので、健常よりも1つ階級が少なくなります。よく驚かれるのは、カテゴリー分けが体重による階級のみで、障がいの程度によって分けられているわけではないことです。それは視覚障害者柔道の独自のルールですね。

 見え方の違いによってカテゴリー分けがされていないので、たとえば弱視の選手と全盲の選手が戦うことも珍しくありません。不公平に思うかもしれませんが、実は相手がまったく見えていないほうが予測不可能な動きをするので戦いにくいこともあります。最近では全盲の選手が大会で優勝したり、世界ランキングでも上位に上がってきたりしているので、見えないことが不利とは限らないんです。どの選手も実力をつけてきているので、それぞれの選手の特徴を踏まえたうえで観戦すると、より楽しめるかもしれません。

 近年は全盲の選手も台頭してきているので、勝つためにはもっと体力をつける必要があります。私たちはともにパワー不足を感じているので、増量期にはとにかく筋トレをして体を大きく強くしています。また、足腰を鍛えるためにランニングも欠かせませんね。地元の海沿い、山道、町中、商店街の4つのコースから、人の少ないところを探して2人で走っています。

 山コースなんて、もう信じられないくらい勾配がきついですよ。周りは愛媛らしくミカン畑だらけですしね(笑)。でも技をかけて投げ切るには下半身が重要なので、頑張ってロードワークをこなしています。

 食事管理も本当に大変です。増量期と減量期がある中で、大会がない時期は2人とも“超”増量期に該当します(笑)。2人ともよく食べるので、ほっといても体重が増えてしまうんですよね。減量期には試合の日程から逆算して、3カ月くらいかけて調整します。最初は低カロリーの食事を心がけるなど栄養を気にし、最終的には一日一食生活にする時期もあります。本当に減量は地獄ですよね(笑)。

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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