ラ・リーガで起きたミラクルストーリー 躍進するエルチェ、日本企業もサポート

工藤拓

昨季終盤、エルチェは7位から奇跡の連続で1部昇格への切符を勝ち取った。強運、勝負強さが際立った 【Getty Images】

 2部を3〜6位で終えた4チームで行われるラ・リーガ1部への昇格プレーオフでは、これまで何度も波乱が生じてきた。

 2010-11シーズンに導入されて以降、2部を3位で終えたチームがプレーオフを勝ち抜いた例は3度しかない。13-14シーズンには、トップチームと同カテゴリーに所属できない3位のバルセロナBに代わり、繰り上げでプレーオフに進出した7位のコルドバが1部への切符を手にするサプライズもあった。

 しかし、その過程も昨季のエルチェが歩んだ道のりほど波乱に満ちたものではなかった。

波乱万丈、1部昇格への道

 7月20日の最終節。7位で迎えたエルチェは自分たちの勝利に加え、6位フエンラブラダが敗れることがプレーオフ進出の条件だった。ところが試合当日にフエンラブラダのチーム内で新型コロナウイルスへの集団感染が発覚し、デポルティーボ・ラ・コルーニャvs.フエンラブラダが延期となってしまう。そのためエルチェは望みをつなぐ勝ち点3を手にしたものの、その後2週間以上も最終順位が決まらず、プレーオフ出場チームが決まらない宙ぶらりんの状態が続くことになった。

 当時問題視されたのは、同時刻に行われるはずだった他の試合結果が先に出てしまったことだ。フエンラブラダが引き分け以上でプレーオフに進出できる条件は変わらなかったが、デポルティーボはフエンラブラダと対戦する前に3部降格が決定。リーグの平等性が失われたことを理由に降格取り消しを訴える傍ら、翌日にはチームを解散してしまった。

 そこからはこの状況に不利益を受けたとする複数のクラブがさまざまな提案――最終節の全試合やり直し、3位サラゴサの自動昇格、昇格プレーオフ枠の拡大、3部降格の取り消し、フエンラブラダの強制降格など――を行ったが、最終的にラ・リーガはあらゆる声をはねのけて8月7日に延期試合を決行する。

 数日前にチームに再招集をかけたデポルは14人、多数のコロナ感染者を抱えるフエンラブラダは7人。お互いトップチーム登録選手がそろわぬ異例の状況で行われた一戦は、信じられない結末を迎えた。終盤まで1-0でリードしていたフエンラブラダが84分に1-1、95分に1-2と逆転され、土壇場でプレーオフ出場権がエルチェの元に転がり込んだのである。

 続くプレーオフでも、エルチェの勝ち上がり方は神懸かっていた。サラゴサとの準決勝、ジローナとの決勝は、いずれも2試合合計1-0。幾多のピンチをGKの好守と相手選手の決定力不足でしのいだ末、準決勝はセカンドレグの82分、決勝は同96分にワンチャンスを生かして決勝点を挙げている。10回やれば8、9回は負けているような内容を繰り返しながら、1失点も奪われることなく4連戦を制したのだ。

今季1部で予想を上回る健闘

今季1部でも予想を上回る大健闘。強豪バレンシアを倒すなど躍進を続けている 【Getty Images】

 バレンシア州アリカンテ県の町エルチェにあるエルチェ・クルブ・デ・フットボルは、2023年に創立100周年を迎える歴史あるクラブだ。ただ2度の2部優勝以外に獲得タイトルはなく、1部に定着していたのは1960年〜70年代中期までで、以降は2部と3部を主戦場としてきた。

 12-13シーズンには史上2度目の2部優勝を果たして25年ぶりの1部昇格を果たすも、わずか2年後には税金や選手らの給与を払えないほど深刻な経営難に陥り、2部への強制降格を強いられた。その後も5年間で3人のオーナーと4人の会長が入れ替わる不安定な経営状況が続く中、17-18シーズンには19年ぶりに3部までカテゴリーを落としている。

 昨季は開幕前にエイバルでスペイン初の女性CEOとして活躍したパトリシア・ロドリゲス氏をフロントに迎えるも、彼女を引き入れたオーナーのホセ・セプルクレはほどなくクラブ経営から撤退。昨年12月にはアルゼンチンの大物代理人クリスティアン・ブラガルニクが新オーナーとなるなど、相変わらず先の見えない状況が続いていた。

 そんなシーズンに奇跡的な形で1部昇格を成し遂げたエルチェは、今季も予想を上回る健闘を見せている。第9節終了時点で3勝2分け2敗の暫定11位。プレーオフ出場によりオフがずれ込んだ影響で、2試合が未消化であることを考えれば上々の出だしである。チームを3部から1部へ引き上げたホセ・ルイス・ロホ“パチェタ”前監督を昇格決定の2日後に解任し、新オーナーが扱う“商品”のひとりであるアルゼンチン人指揮官を連れてくる人事にはネガティブな印象しか受けなかったが、今のところ新体制は機能しているようだ。

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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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