ラ・リーガで起きたミラクルストーリー 躍進するエルチェ、日本企業もサポート

工藤拓

日本企業とのパートナー契約延長

日本企業のスフィダンテは17年からエルチェをサポート。契約延長を発表し、安本圭佑社長も記者会見に応じた 【Getty Images】

 先日はピッチ外でも良いニュースがあった。エルチェが17年からパートナー契約を結んでいる日本企業、株式会社スフィダンテとの契約延長が発表されたのだ。同社の安本圭佑・代表取締役社長は11月4日、エルチェのパトリシア・ロドリゲスCEOと共にオンライン会見を行い、次のようにあいさつしている。

「正直、こんなにも早く1部に昇格するとは全く思っていませんでした。1部昇格までの大躍進を共にできたことが心からうれしいですし、このような機会を頂けたこと、今まで一緒にチャレンジさせていただいたことにあらためて感謝しています」

 スフィダンテが契約を結んだ17年は、先述した通りエルチェが3部で戦っていた時期である。経営面でもスポーツ面でもどん底にあった異国のサッカークラブに、なぜ日本の一企業がスポンサーについたのか。誰もが抱いた疑問に対し、安本氏は次のように答えている。

「元々私もサッカーをしていまして、いつかサッカーに関わるビジネスをしたいと縁を探していたときに、知り合いがエルチェのサポートに関わるきっかけがあり、その方からエルチェというチームがあるけど興味はないか、と聞かれました。我々もフォトギフトを通じて世界中の方に笑顔を増やしていきたいという目標でやってきたので、スペインの方々にそのサービスを届けたいということで、まずはエルチェと関係を持って、やっていこうという形で話を進めていただきました」

 イタリア語で「挑戦者」を意味するスフィダンテは、スマートフォンで撮影した写真をフォトギフトや年賀状にして贈るサービス事業を展開している。企業理念は「世の中に笑顔を増やしていきたい」。19年にはシンガポールでのサービスを開始しており、エルチェとの契約はスペイン進出の第一歩と考えているようだ。

 一方のエルチェも、スフィダンテとの契約は経済的なプラスアルファとしてだけでなく、日本におけるクラブの認知度向上に向けた足がかりと考えている。コロナ禍による足止めを食らっているものの、クラブは中長期的視野に立って日本への興行遠征やサッカースクール事業の展開を計画しているという。

躍進の過程で49億円以上の負債を返済

パトリシアCEOは財政難に陥ったクラブの立て直しを図る。負債返済もまだ道半ば 【Getty Images】

 その意味で、わずか3シーズンのうちに実現した3部から1部への躍進はエルチェとスフィダンテ、双方の目標を後押しすることになるだろう。安本氏は言う。

「支援を始めた4年前は、一部のサッカーが好きな人が知っているくらいでした。今回、1部に昇格する過程で日本人選手がいるチームを倒し、非常に悔しがる方も多かったですけど、上がったことでエルチェを応援してくれる方が増えたのも事実です。4年前よりかなりメジャーになってきていると実感しています」

 3部時代からスフィダンテのサポートを受けてきたエルチェは、1部へと這い上がる過程で日本における知名度を着実に高めつつ、4000万ユーロ(約49億5000万円)以上もあった負債のほとんどを返済することに成功している。

 そして今季、エルチェのユニホームの左袖に入ったスフィダンテのロゴは、スタジアム内の広告と共に世界中のラ・リーガ中継に映し出されることになる。

 17年に始まった両者の関係が成功例となれば、今後さらにスペインと日本の橋渡しとなる契約も増えていくのではないか。

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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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