久々の実戦で光った10代クライマーの躍進 いざ五輪へ、コロナ禍と係争の中で再始動

平野貴也

目立った“10代戦士”の活躍

優勝した西田や森、来春からプロとして活動予定の伊藤ふたば(写真)ら、10代の活躍が目立った 【平野貴也】

 やはり、大会を行うことで、選手はモチベーションや取り組む課題を見つけることができる。コロナ禍で延期が続いていた今大会は、大きな収穫もあった。東京五輪の代表クラスよりも次世代を担う若手の躍進が目立ったことだ。男子優勝の西田が17歳、女子優勝の森は16歳。日本代表の安井ヘッドコーチは「本来なら東京五輪が終わり、24年のパリ五輪に向かう時期。そのタイミングで次の若手選手の活躍が見られ、パリに向けても選手が育っていることが確認できてうれしい。東京五輪の強化選手たちも、下からの突き上げで、うかうかしていられないという気持ちになると思う。国際大会がない中、国内でこのような争いができることは、我々にとってプラス」と10代戦士の台頭を歓迎した。

 日本のスポーツクライミング界は、次世代の突き上げが激しい。女子の伊藤ふたば(TEAM au)も高校生だが、今年はボルダリングとスピードの2種目でジャパンカップを制覇。今大会は7位で3冠はならなかったが、来春からプロとして活動する予定の逸材だ。女子の森や伊藤は、昨年に東京五輪の出場権獲得に関わる国際大会でも優秀な成績を挙げている。次世代の突き上げによる競争力向上は、大きく期待できる。

気になる代表選考を巡る裁判の行方

 もともと、日本山岳・スポーツクライミング協会が発表していた東京五輪の日本代表選手選考方法では、男女各2枠のうち、残り1枠ずつは、コンバインドジャパンカップ(5月に実施予定だったが延期)で決定することになっており、この新世代の突き上げも含めた競争が行われることになっていた。

 しかし、この男女2番手の決定方法は、裁判にゆだねられている。国際スポーツクライミング連盟が、昨夏の世界選手権後に基準の解釈を変更し、日本代表は世界選手権で楢崎や野口とともに出場枠を獲得した男子の原田海(日新火災)、女子の野中生萌(XFLAG)で決定と主張。日本山岳・スポーツクライミング協会は昨年11月に新解釈の取り消しを求めて、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴した。楢崎、野口を除く有力選手は、出場可否が不透明なままだ。

東京五輪の代表選考基準を巡る裁判で、今月中にも聴聞会が行われる予定。安井ヘッドコーチ(写真)は「待つだけ」と話す 【平野貴也】

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響により4月から延期されていたCASの聴聞会が今月26日に行われるが、野中は「いつも、思ったより(話が先に)進まないので、期待せずに、とにかく待つのみです」と苦笑い。伊藤は「自分がどうこうできる問題ではないので、とにかく良い結果が出ることを祈るしかない」と話し、森はコロナ禍で来夏開催も危ぶまれる大会に長期間にわたって左右される危険性に戸惑いを示しつつ「開催されるか分からない大会に向けて調整するのは、すごい複雑な気持ちだけど、東京(で開催される)五輪に出られる機会は今後ないかもしれないから、あることを願って希望を捨てずに、頑張って練習している」と行方を見守る姿勢を示した。

 日本が定めた当初の方法であれば、最後まで代表枠を争うことによるレベルアップが期待できる。一方、早期に男女2名の代表が決まれば、来夏の東京五輪に向けた強化は、やりやすくなる。安井ヘッドコーチは「役員の方々が頑張ってくれると思うので、待つだけ。曖昧な部分がハッキリして、それに対して計画を練っていくという作業になると思う」と行方を気にかけた。

 初めての五輪採用で、スポーツクライミングの存在を知らしめる金メダルの獲得を目指す。そのために、延期されていた国内大会を開催し、再スタートを切った日本スポーツクライミング界だが、まだコロナ禍と裁判に揺さぶられながらの前進だ。新世代の台頭を東京五輪につなげられるか。代表選考に関わる裁判は、今後も注目される。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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