黒田博樹にも微笑んだ「野球の神様」 MLB最終試合の“伝説”を振り返る

構成:スポーツナビ

「なぜ野球の投手だけに勝ち負けが付く?」

「チームスポーツで、なぜ個人に勝ち負けが付いてしまうのか」と投手スタッツについて疑問をもっていたという 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

AKI メジャー通算79勝を挙げましたが、それぞれの勝利をうっすらとでも覚えていたりしますか?

黒田 いや、まったく覚えていないですね。メジャー初勝利のボールは持っているかもしれませんけど、それ以外のボールは持っていませんし、あんまり覚えてもいないんですよね。ゲームが終わったら次のゲームへ、という感じで無我夢中でやって、それが自分の中のルーティンになっていた感じですね。

AKI 少し聞いた話ですが、黒田さんはユニホームを脱いだ後、少しゆっくりした生活を過ごす中で、「なんで投手に勝ち星というものがあるのか?」と。他のスポーツにはたった1人に勝ち負けの責任を負わせるようなスタッツはない。それなのに「なぜ野球の投手だけに勝ち負けが付くんだろう?」ということを疑問に思っているとのことですが?

黒田 はい。不満ということではないんですが、チームスポーツで、なぜ個人に勝ち負けが付いてしまうのかというのは、僕の中ですごく疑問というか……。最初にベースボールを作った人が、そういうことで作ったのかも分からないですけど、なんかすごく不思議だなと思うんですよね。

AKI 今まで僕は、そういうことを思う選手に会ったことがない(笑)。このように黒田さんが「なんでなんだろう?」という思いを持っているっていうことが、裏を返すと、いかに先発ピッチャーとしての勝ち星の持つ意味の大きさを感じて、現役時代を過ごしてきたからこそ、こういう疑問が湧き上がってくるんだろうなと思います。いかにも黒田さんらしい思いだなと思ったのですが。

黒田 当然、先発だけじゃなくて、ピッチャーには1球で勝ちが付いたり、1球で負けが付いたりする。それが、当日のスポーツニュースで取り上げられて、翌日のスポーツ紙などにも名前が残る。そういう部分ではすごく不思議だなと思いますし、残酷な部分も出てきますからね。

「カープだから帰ろうと思った」

AKI 話をジーターの「ラストダンス」に戻すと、やっぱり持っている男は違うという感じがしましたよね?(編集注:5対5の同点、9回裏1死二塁の場面で打席に入ったジーターがライト前に劇的なサヨナラヒットを放った)

黒田 そうですね。初球を打って、(二塁走者が本塁で)アウトにならないのもすごいなと思います。

AKI 黒田さんも、この日は8回95球、被安打3と、素晴らしいピッチングでした。

黒田 本当は7回で代わるつもりでいたんですけど、監督とコーチが来て「もう1イニング投げたらどうだ」と言われて投げた。9回を投げれば年間200イニングだったので、監督には「交代はするけど、マウンドに上がってニューヨークのファンに挨拶したらどうだ?」と言われたんですけど、「今日はジーターの日なので」と断ったのを覚えていますね。

AKI 結果的には黒田さんの好投がジーターのサヨナラを呼び込んだと思います。僕は「メジャーリーガー・黒田」というものを、もう少し楽しませてもらえるかなと思ったんですが、結果的にこの日がメジャー最後のマウンドになりました。日米で大きな綱引きがあった中、「広島東洋カープに戻る」という選択をされましたが、なぜカープに戻ってくるという決断をしたんですか? 最後に黒田さんの口から、改めて聞きたいのですが?

黒田 「なぜ?」と言われると難しくて、僕自身もよく分からないんですけど、ひと言で言うと「カープだから」ということかな。格好良く言うと、「カープだから帰れた」し、「カープだから帰ろうと思った」のかなと思います。

AKI ヤンキースからの残留オファーのほか、古巣ドジャースやパドレスからも具体的な良い契約があった中、カープに戻るという決断をした。その決断の仕方も、“漢・黒田”という感じがしました。

黒田 このシーズンオフはすごく悩んだのを覚えていますし、結果的に自分の選んだ道が良い形になって良かったなとは思います。それと同時に、やはりジーターという選手と同じユニホームを着て、同じグラウンドに立てたことは財産にもなりましたし、ジーターの引退試合と言えるゲームが僕のMLB最後の登板になったというのも、ものすごく僕にとっては幸せなことだったと思いますね。

AKI そういう意味では、黒田投手にも野球の神様が微笑んでくれていたんだと思っています。

黒田 僕は一度もそういうことを感じたことはなかったですが、ただやっぱり、常にそういう気持ちで頑張っていれば、常に一生懸命やっていれば、野球の神様が見てくれていると思いながら、日々、ルーティンをこなしてゲームに臨んでいました。そういう意味では、最後は(野球の神様が)いたんだなと思いたいですね。

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