黒田博樹、完璧を追い求めた果ての決断 “日本人史上最高の投手”にエールを
安定感のシンボル、エースの称号も
5年連続2ケタ勝利、通算79勝79敗、防御率3.45。黒田は7シーズンにわたってメジャーで戦い抜き、抜群の成績を残した 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】
黒田博樹がヤンキース時代に残したコメントの中で、最も印象的だったのはそんな言葉である。まだ移籍1年目の2012年夏ごろのこと。そして、自身の哲学を追い求めるために、ヤンキースは“理想的な環境”であるとも言った。
実績あるベテランが敷き詰められ、常に勝利にこだわるのがニューヨークの名門フランチャイズ。才能があっても身勝手になりがちな若手の少ないクラブハウスは、30代後半のベテラン投手にとって過ごしやすい場所だったのだろう。
そのチームに属した3年間で、通算38勝33敗、防御率3.44。安定感のシンボルのような投球を続け、1年目の後半から2年目の前半あたりまでは“ヤンキースのエース”と呼ばれるようにさえなった。
ある程度このスポーツを知ったファンにとって、好調時の黒田ほど見ていて楽しい投手はいなかった。1つ1つの投球に意味と裏付けが感じられ、目的を遂行するだけのスキルも備える。派手さはなくとも味のある老獪(ろうかい)なピッチングは、目の肥えたニューヨーカーをうならせるのにも十分だった。
今季にはドジャース時代から合わせて5年連続2ケタ勝利を達成。メジャー通算7年間で79勝79敗、防御率3.45という上質な数字も伴ってきたのだから、たとえ“完璧”ではなくとも、いつしか“日本人メジャーリーガー史上最高の投手”と評されるようになったのも当然だっただろう。
番記者が明かす今季終盤の変化
「黒田の方がヤンキースから離れようとするんじゃないかな。原型のヤンキースに優勝の可能性が薄いことを、黒田は肌で感じているようにも思える。もちろん日本人投手らしく、チームのためにベストを尽くす姿勢こそ変わっていないけど、以前のような緊張感が彼からなくなっているような気がする」
今季も終盤戦に差し掛かったころ、ESPNデポルテスのヤンキース番記者であるマーリー・リベラ女史がそう語ってくれたことがあった。
過去数年でデレク・ジーター、マリアーノ・リベラ、アンディ・ペティートといった重鎮たちが次々と引退したヤンキースは、2年連続でプレーオフ進出に失敗。今季限りでジーターまでが現役を去り、もう黒田のようなベテランにとって“理想的な環境”ではなくなった。
今オフに関しては、クリス・カプアーノと再契約し、ネーサン・イオバルディもトレードで獲得するなど、ヤンキースも黒田が戻らないことを前提とするような来季への準備を進めていた。過渡期にあるそんなチームの中で、給料は悪くなくとも、“ローテーションの保険”のような微妙な役割で投げ続けることを望まなかったのだとすれば、意気に感じるタイプの黒田らしい。