フットボールの祖国に愛された吉田麻也 その人柄とセインツでの功績を振り返る

エルゴラッソ

地元の子供たちにも愛された人柄

現在はイタリア・サンプドリアでプレーする吉田。移籍後リーグ戦6試合のうち5試合でフル出場(7月10日現在) 【写真:Maurizio Borsari/アフロ】

 このツイートに感銘を受けるとともに、このツイートの反応に吉田の誠実な人柄が詰まっている。

 まず現在の吉田は、サンプドリアの一員としてセリエAを戦っている。そんな中でもローン元に気遣う発信をするのは当たり前のように思えて、決して当たり前のことではないと感じる。そして言葉選びだ。この吉田自身も強調している「march(前進する)」というワードは、おなじみのチャントや、アンセムにも出てくるサウサンプトンを想起する言葉だ。自身のメッセージの中に、サウサンプトンに関わる多くの人々との共通言語をきちんと入れてるあたりに、気遣いのできる人柄がにじみ出ている。

 何より、吉田と記念撮影した写真とともに、感謝の言葉を伝えるファンの反応が多かった点にも注目したい。これは吉田がファンサービスを欠かさなかった証拠でもある。実際に吉田のファンを大切にする姿勢に関しては良いうわさが多い。サウサンプトンでスタジアム観戦した多くの日本人ファンから、「吉田と記念撮影ができた」という話を数多く聞こえてくるのだ。

 しかも日本人だけでなく、現地のファンからも愛されていた。筆者が観戦した2018年秋のサウサンプトンvs.ニューカッスルの一戦で、吉田はベンチスタートだった。日本代表のプレーを見られないのは残念だったが、サウサンプトンの試合を楽しみつつ、後半開始前にロッカールームからベンチに戻ってくる吉田を眺めていたら。「マヤ!」と叫ぶ子供の声が聞こえてきた。近くには他にも選手がいるにもかかわらず、地元の子供たちは、誰よりも先に吉田に対してサインや記念撮影をねだったのだ。

 子供は素直だ。だからこそ、吉田がセインツの一因として、本当に愛されていることを実感した。

サウサンプトン公式「君はいつまでも『セインツ』」

 サウサンプトンで長く愛された男に対して、ファンだけでなく、関係者からもさまざまな反応があった。まずサウサンプトン公式は、「そう言ってもらえてとても光栄です。君はいつまでも『セインツ』だよ」と愛のある回答をした。
 他にも現在はFAでマネージングエディターを務め、過去にはサウサンプトンでも働いていたジム・ルーカス氏は入団当時の若かりし頃の吉田麻也の写真を乗せながら、「まるで昨日のことのようだ。マヤ!あれだけ注目されるのに、まだ僕たちは慣れてなかったよね」と、親しい関係性ゆえか、茶目っ気を感じるコメントを残した。
 確かに、自身の入団ために多くの記者が集まっている様子を、本人がスマートフォンで記念撮影しているあたりに、「若さ」を感じる。

 いずれにしても、吉田のツイートと、一連の反応から、吉田はイギリス南部の地で過ごしたおよそ7年半の期間で、多くのものを残してきたことを実感させられた。

 こうしてサウサンプトンも吉田自身も、次のステージに足を踏み入れた。直接別れを伝えられない寂しさはあるが、それでも残した功績や思い出は消えるわけではない。

 彼らはこれから違う道をともに歩み続けるのだ。

 ただ願わくは、何らかの形でその道が再び交差し、今度こそ直接感謝の気持ちを伝え合う機会が訪れることを祈るばかりだ。

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著者プロフィール

サッカー新聞エル・ゴラッソ。通称エルゴラ。国内外の最新サッカーニュースを日本代表の番記者、J1・J2全40クラブの番記者、海外在住記者が、独自の現地取材をもとに、いち早くお届けします。首都圏の駅売店およびコンビニエンスストア・関西地域の主要駅売店にて発売中。

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