あの瞬間〜両者がその時考えていたこと〜

柿谷曜一朗は高杉亮太をどう抜いたのか? 2018年に生まれた美しいゴールを振り返る

坂本聡

前編

2018年のこどもの日に生まれた美しいゴール。ドリブルで仕掛けた柿谷と対峙したDFの高杉は、その時何を考えていたのか 【セレッソ大阪/Jリーグ】

 サッカーのワンシーンを切り取り、関わった両者のインタビューからその瞬間を振り返る企画。編集部が選んだ『あの瞬間』は2018年のJ1リーグ第13節、セレッソ大阪対V・ファーレン長崎戦で、C大阪の柿谷曜一朗が決めた先制ゴールの場面だ。柿谷が見事なフェイントで、長崎のDF高杉亮太(現栃木SC)を抜き去った瞬間、両者は何を考えていたのか――。

テクニックが詰まった“柿谷らしい”ゴール

 ゴールが決まると、スタジアムがどよめきと大歓声に包まれた。2018年5月5日、J1リーグ第13節。快晴に恵まれたこどもの日、ヤンマースタジアム長居には29,845人もの観客が詰めかけ、スタンドをピンクに染めていた。そのホームサポーターを沸かせたのは柿谷曜一朗だ。セレッソ大阪の背番号8は、左サイドからドリブルで仕掛け、対面するV・ファーレン長崎のDF高杉亮太(現栃木SC)をキックフェイントであっさりとかわすと、GK徳重健太との1対1を制してファーサイドへとボールを流し込んだ。

 細かいステップと鮮やかな切り返し、そしてゴールネットを揺らすまでの流れるような一連の動き。いかにも柿谷らしいテクニックが詰まった、美しいゴールだった。この場面のハイライト映像はYouTubeのJリーグ公式チャンネルで見ることができるので、ぜひ確認していただきたい。そのほうが、ここから先の柿谷と高杉の言葉をより楽しめるはずだ。

覚えていない2018シーズン

初のJ1での戦いとなった高杉は、このシーズンを「よく覚えていない」と語った 【(C)J.LEAGUE】

「いやあ、どうしようもないDFが倒れてますね」高杉は苦笑いしながら、本当なら「二度と見たくない」というシーンを見返してくれた。現在、栃木SCに所属する彼は、わずか2年前のシーズンのことをよく覚えていないという。長崎というクラブにとっても、彼自身にとっても初となるJ1での戦い。「次の試合、目の前の試合のことで必死でしたからね。プレーをゆっくり振り返る余裕もなかったというか、余計なことを考える暇がなかった」

 長崎はこのシーズン、クラブ史上初のJ1で第6節まで未勝利と苦しんだあと、第7節から4連勝と波に乗った。その後に2連敗を喫してC大阪戦を迎えるが、「チーム状態が悪いとは思わなかった」と高杉は言う。もっとも、「J1で十分にやれる」という安堵感もなかった。「自分たちの実力は理解していたので、かなり冷静だったと思います。何ができるのか、何をすれば勝てるのか。通用するとかしないとかではなく、常に次の対戦相手のことだけを考えていた気がする」
 柿谷もまた、高杉と同じように2018シーズンのことはあまり覚えていない。ただし、その理由は高杉と違っている。「このシーズンはケガもあって、試合に絡めない時期が多かったんです。充実していなかったシーズンは、僕のなかでは記憶が薄くて。チームに貢献できなかった悔しさは覚えていても、試合内容は言われなければ思い出せないくらいです」

 確かに、柿谷にとっては悔いの残る1年だった。2018シーズン、リーグ戦では開幕戦から2試合連続ゴールと好調だったにもかかわらず、途中交代やベンチスタートが続いた。これはAFCチャンピオンズリーグとの連戦に備えたローテーションの影響もあるが、柿谷にとっては力を出し切れないと感じる試合が多かったという。柿谷は第13節までに4ゴールを挙げながら、シーズン後半は右足の内転筋を痛め、2度にわたって戦列を離脱。結局はこの長崎戦のゴールが、彼にとって18年の公式戦で最後のゴールとなってしまった。この対戦の前、C大阪は5位という好位置につけていたが、柿谷は自分たちが残している数字ほどの充実感を覚えているわけではなかった。

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