再開したブンデス、マスクはシンボル? 取材記者が明かす厳戒態勢の裏側

孤軍奮闘の取材記者

鎌田大地は先発出場したが、後半途中に交代 【写真は共同】

 私にとって、1-3で終わることになるアイントラハト・フランクフルトvs.ボルシア・メンヘングラードバッハ(MG)の試合が始まったのは、5月16日土曜日の18時30分ではなく3日前、具体的に言うと水曜日の18時だった。

 この時点までに、『フランクフルター・ルントシャウ』紙の記者である私、インゴ・デゥルステヴィツは、フランクフルトに名前、住所、携帯電話番号とともに、今季残りのリーグ戦、ドイツ杯(DFBポカール)準決勝、UEFAヨーロッパリーグのすべての試合に帯同すると申し出なければいけなかった。編集部で私だけ、である。もし体調を崩したり、休暇を取ったり、他の用事があって試合に来れないようなことがあっても、プレススタンドの私の席は空席のままだ。

 ドイツサッカーリーグ機構(DFL)の厳しい衛生コンセプトは、代わりに誰かがスタジアムへ取材へ来ることを許さない。私たち編集部にとって、これは慣れないことだ。普段は必ず、少なくとも2人、ホームゲームでは3人で取材をしているのであるから。『フランクフルター・ルントシャウ』紙は基本的に試合翌日に試合の背景となるストーリー、採点、コメントなど丸々2ページをフランクフルトの話で埋めなくてはならない。だから、これだけの人数は必要でもあるのだ。ウェブサイトでの速報はまた別として。

 新型コロナウイルスで中断される前のフランクフルトの最後の試合は3月中旬、ヨーロッパリーグでのFCバーゼル(スイス)戦で、これも無観客試合で行われた。しかしその時は編集部から必要なだけの人数を入れてもらえた。コロナ禍が始まった当時はメディアに対して全く何の制限もなかった。それがコロっと変わった。

 試合2日前の木曜日の午前中、選ばれた記者たちはクラブ施設内でPCRテストを受けさせられた。中立のフランクフルトの開業医が細胞液を採取し、抗体検査のための血液も取った。検査の結果は6時間後、その日の午後には通知された。結果は陰性。ということで、私は取材を許可されることになった。

 DFLは今シーズン終了までに25,000から30,000件のPCRテストを予定している。基本的に、リーグ再開前に1週間ホテルで隔離されていた選手、監督、スタッフ、フィジオセラピストたちは、これからも4日ごとにテストを受けることになる。ちなみにリーグ再開までにも少なくて5回のテストが行われていた。現在ドイツ全体では1週間で37万の検査が行われており、95万の検査キャパシティーがある。その結果、3月以来、約300万の検査が行われてきた。

試合当日は厳戒態勢

スタジアムではクラブのロゴマークが入ったマスクの着用を義務付けられた 【Getty Images】

 試合当日も、何もかもが違っていた。今までの年間取材パスも無効だし、車の駐車券もそうだった。取材パスの受け取りはスタジアム敷地外、いつもは駐車場として使われているエリアに特別に作られたチェックインシェルターで受け取った。最初に体温を計られ、前日に送られてきた健康チェックに記入・署名したものを渡す。聞かれるのは、コロナ感染の場合の典型的な症状があるかどうか、最近いわゆるリスク地域に滞在したかどうか、最近陽性反応が出た人と接触したかどうか。

 このチェックインシェルターで、スタジアム敷地内とスタンドで着用が義務付けられるマスクをもらう。マスクの着用は厳しくチェックされる。私が試合中に一度マスクを外したら、近くにいたセキュリティの人に、すぐ着けるように促された。あとは胸には名前札をつけさせられた。

 そのほかに『トランスポンダー』という5×3.5センチの小さな発信器を渡された。1ユーロ(約116円)のコインくらいの大きさで透明な袋に入っており、首からかける。1.5メートルの間隔をあけていないと『ピー』と音が鳴り、赤色に点滅する。これはフランクフルト独自のパイロットプロジェクトで、この試合に関わる20人から30人に配った。後で中に入っているチップを見れば、誰がいつ、どこで、どのくらいの時間いたかが分かるらしい。

 DFLの衛生コンセプトが実際に守られているかをチェックし、もし感染者が出た場合に、誰が誰と接触したかが分かる。もしこの実験がうまくいけば、DFLと他のクラブも興味を持つかもしれない。ただ、『トランスポンダー』はしょっちゅうピーピー鳴っていたのであるが……。

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ドイツ『フランクフルター・ルントシャウ』紙記者

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