「患者にならないことは素晴らしい貢献」 最前線で戦う医療従事者とともに

いとうやまね

土肥美智子医師(選手の後方)はサッカー日本代表選手ともコミュニケーションを取り、メッセージを伝えた 【Getty Images】

 国立スポーツ科学センター(JISS)の医師・医学博士で、サッカー日本代表のチームドクター、土肥美智子医師。連続インタビューの最後は、新型コロナウイルス流行の中でのサッカー日本代表選手とのやりとりや経済と健康、さらに医療関係者の家族に向けられる風評被害、医療体制のあり方について、語ってもらった(インタビュー取材は4月3日にオンラインで実施)。

柴崎岳選手とのコミュニケーション

――著書『サッカー日本代表 帯同ドクター』の中でも触れられていますが、代表選手のコンディションや近況を常日頃チェックして、代表のメディカルチーム内で共有するそうですね。今回の緊急事態でもコンタクトを取り合っているのでしょうか?

 選手からの問い合わせは何人か来ていますね。会長が感染したことで心配してくれているのもあるのですが。それぞれに所属チームがありますし、こちらからあまりこうしなさいと言うわけにもいきませんが、できる範囲で相談には乗っています。

――少し前までワールドカップ予選や国際親善試合も予定されていました。

 柴崎岳選手などは「予選で自分が日本に帰国した時にどうなるのか?」「予選が終わったらスペインに戻れるのか?」と心配していました。あの頃はスペインでコロナが流行る前ですから、所属チームの方が選手の日本行きを怖がっていたと思うんです。そうこうしているうちに、スペインが日本よりも先に蔓延(まんえん)してしまったのですが。柴崎選手も、今回SNSでさまざまな発信をしていますが、毎日のように深刻な現状を目の当たりにしているのだと思います。

――まだ、ほとんどの海外組は現地にいますよね。

 私の知っている範囲では向こうにいますね。海外のトップ選手もみんな工夫してSNSで発信してくれています。「自分は何ができるんでしょうか?」と聞いてきてくれる選手もいて、そんな時は「発信してくれるだけで影響力がある」と言っています。彼らをよく知る若者たちに向けては、まずは自宅待機、そして自分が感染しない、感染させないと訴えるのが良いでしょう。

 医療現場で懸命に戦っている人たちのことを思ってくださるならば、「患者さんをつくらない」ということが大事なんです。患者さんが少なければ医療従事者は助かるわけで、亡くなる方も少なくなります。それはできることじゃないですか。お金のある人が大金を寄付してくれる、医療機器を買います、というのは、それはとてもありがたいことです。でも、自分が患者にならないということだけでも、医療従事者にとっては十分素晴らしい貢献なんです。そういうことを発信してもらえればいいなと、LINEでやり取りをしながら伝えています。

経済は健康な人がいて初めて成り立つ

日本でも新型コロナ感染拡大に歯止めがかからず、医療体制は予断を許さない状況に 【写真は共同】

 いつもスポーツ医学の講演会で話すことですが、例えば、JISSは国際競技力向上、国際協力向上を掲げています。メディアはスター選手が出場していい試合ができれば、テレビも見てもらえるし、お客も入る。スポンサーもたくさんついて収益は上がります。その時、いつも違和感を覚えるのは「いやいや、それは選手が心身ともに健全であることがベースにある」と。そこを忘れてはいけません。上手くなるためにはどうするとか……その前に健全かどうかです。それがなければ競技力向上は望めません。試合ができなくなると収入が減る、それはもちろん切実な問題ですが、その前に健康体であることなんです。

 今、同じことが起きています。経済は健康な人がいて初めて成り立つわけで、ここであがいて無理にお店を開きますとか、会社に出向いて会議をやりますとか、そんなことではなく、本当に閉鎖をして、ともかく接触を最低ラインのところにしておいて、みんなでしのぐことが重要です。日本フェンシング協会の太田雄貴会長もビル・ゲイツ氏の言葉を引用してネットでおっしゃられていました。『経済を回復させるのは、死んだ人を生き返らせるよりも簡単だ』と。

――毎日、病床数が分かるサイトを見ているのですが、かなりひっ迫しているのが感じ取れます。

 いろんな話を聞くと、新型コロナウイルスに感染すると急激に症状が悪化するケースがあるのが特徴のようです。一方、軽症の人は軽く済むことも多いようなので、重症患者が病院を使えるように、みんなが意識していかなければなりません。今日(4月3日)のニュースを見ると、軽症者はホテル等で隔離していく方向に舵を切るようなので、田嶋の時とは状況が変わってくると思います。それは良かったと思います。

――田嶋会長の病院もベッドや防護服が足りないとか。

 ドクターの防御服は数が限られています。「症状が改善したら毎日は回診に来られません」と言われたと田嶋も話していました。事の深刻さを感じたようです。もう少し治療が長引いていたら、早めに病室を移されるか、自宅待機になっていたと思います。熱は37度台だったようで、肺炎の方も退院時にプリントアウトしてもらった画像を見ましたが、人工呼吸器が必要なほどには重症になっていないようでした。肺炎があるので軽症ではないのですが、重症の方は肺のあちこちが真っ白になります。田嶋は部分的に数カ所でした。

――報道番組のコメンテーターについては?

 彼らは視聴者に代わって質問を投げかけているんだとは思うのですが、茶の間の人が混乱するくらい質問が出すぎるのです。あれでは、テレビを見過ぎない方がいいんじゃないかと思いました。あと、やはり統計学的な公衆衛生の部分と、実際現場で起こっていることとは当然ギャップがあります。皆さんが思っている疑問はごもっともですが、それを発することによって誤解を招く場合があります。

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著者プロフィール

サッカーおよびフィギュアスケートのコラムニスト、サッカー専門TV、欧州実況中継、五輪番組のリサーチャー。コメンテーターとしてTVにも出演。Interbrand、Landor Associates他で、シニアデザイナーとしてCI、VI開発、マーケティングに携わる。後に、コピーライターに転向。著書は『氷上秘話〜フィギュアスケート楽曲プログラムの知られざる世界』『フットボールde国歌大合唱』他、構成『サッカー日本代表帯同ドクター』(土肥美智子)他。

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