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ドリブラーと決別した愛媛が求めたのは
“うまくて賢い”新シャドー、森谷賢太郎
献身的でキープ力に長けた森谷がシャドーに入ることで、間違いなくポゼッションは安定するはずだ。それと同時に、「試合を決めるプレー」も経験豊富な彼には求められる
献身的でキープ力に長けた森谷がシャドーに入ることで、間違いなくポゼッションは安定するはずだ。それと同時に、「試合を決めるプレー」も経験豊富な彼には求められる【(C)J.LEAGUE】

 川井健太監督が就任以来、テーマに掲げる「ボールを大切にするサッカー」。その完成度を高めるために、今季ジュビロ磐田から期限付きで獲得したのが、森谷賢太郎だ。近年はボランチを主戦場としてきた31歳のベテランを、2シャドーの一角に抜てき。速さこそないが、うまさと賢さを兼備するMFと、愛媛FCが目指すスタイルの親和性は高い。

前任者とタイプが異なるのは明らか

「自分だけ良ければ、という考えはさらさらない」


 これまで9年間、プロキャリアを培ってきた舞台はすべてJ1。だが、プロ10年目にして初めて経験するJ2の舞台でも、森谷賢太郎の献身性が揺らぐことはない。


 昨シーズンはジュビロ磐田で定位置をつかみ取れなかっただけでなく、チームも降格の憂き目を見た。そして、再起を期した今シーズン、新天地・愛媛FCで用意されたポジションは2シャドーの一角。攻撃の軸として期待されている。


 ユーティリティー性に優れ、かつては攻撃的なポジションでもプレーをしていた森谷だが、近年の主戦場はボランチ。「個で打開できるタイプではない」と自身も認めるプレースタイルを考えても、若干の違和感はあった。


 昨シーズンまでの愛媛で2シャドーを担っていた神谷優太(現・柏レイソル)、近藤貴司(現・大宮アルディージャ)らはスピードがあり、個の力で局面を打開できるドリブラータイプだった。その2人そろってチームを去り、後釜としてやって来たのが森谷だが、前任者とタイプが異なるのは明らかだ。


 だが、決して同タイプの選手を獲得できなかったという理由で、森谷をシャドーに据えたわけではない。この人選は、あくまでも狙いどおりのものだ。

特筆すべきはボールキープ力の高さ

 就任3年目を迎えた川井健太監督は、「ドリブラーを否定するわけではない」と前置きしながら、次のように語る。


「シャドーは速くて、うまくて、賢いというのが理想。でも、うちはクラブの財政事情を考えても贅沢は言えない。ただ、真ん中にボールを集められる選手がいれば、両ワイドはもっとスピードや馬力を生かせる。中央はあまり時間がないのが現代サッカー。ヨーロッパでも、どこで1対1を仕掛けるかと言えば、やはりサイドになる。ならば、そういうタイプの選手をシャドーに置いたほうがいい」


 森谷には指揮官が理想とするシャドー像のうち、“速さ”こそないものの、“うまさ”と“賢さ”は兼ね備えている。川井監督の就任以来、一貫して追求する「ボールを大切にするサッカー」の完成度を高めるという意味で、より重要になるのがこのうまさと賢さだ。


 なかでも特筆すべきはボールキープ力の高さ。森谷は中央の密集したエリアでもボールを受けることができ、激しいプレッシャーがかかるなかでもほとんどボールロストをしない。本人はこう語る。


「後ろから仲間がしっかりつないでくれたボール。自分に入ったときに無責任なプレーや簡単に失うようなプレーはできない」

前で使われていること自体がメッセージ

 昨シーズン、シャドーでプレーした神谷は、若くギラついた野心を前面に出し、ボールを持てば常に強気にアタックした。ときに胸のすくような“神プレー”でファンをうならせ、対戦相手への脅威になったが、反面、不用意なボールロストも少なくはなく、それによって「ボールを大切にするサッカー」が寸断されていたことも否めなかった。


 結果的に組織と個の共存はかなわなかったわけだが、ここまで見る限り、森谷のプレースタイルと愛媛が目指すサッカーの親和性は非常に高そうだ。


 最後方からビルドアップしてつながれてきたボールを受ける森谷は、自身の献身性をもってそれを失わないだけでなく、広い視野と高精度のパスを駆使し、複数の選択肢の中からより確度の高いチャンスを創出する。


 そのワンプレーだけを切り取れば大きなインパクトはないかもしれないが、チーム全員でつないだパスの導線を辿れば、それは「ボールを大切にするサッカー」の答えに行き着くと言っても過言ではない。


「自分はボランチもできるなかで前線に置かれている。チームにはいろんなオプションがあるけど、プレシーズンから常に前でプレーしている。それ自体が監督からのメッセージだと思っている。でも、忘れちゃいけないのは、自分はチームの一員であるということ。その上で、前線でクオリティーの高さを見せ、自分が試合を決めるという気持ちを持たなきゃいけない」


 ドリブラーと決別し、新たな方向性を模索し始めた愛媛の進む道は、吉と出るか、凶と出るか。その答えを握っているのは、もちろん森谷自身だ。


(企画構成:YOJI-GEN)

松本隆志

愛媛県出身。地元出版社に勤続ののち、2007年にフリーエディターへ転身する。09年よりサッカーライター業も並行し、愛媛FCを中心に取材活動を開始。『EL GOLAZO』、『サッカーダイジェスト』、『J’s GOAL』など国内の主要サッカーメディアに寄稿する。地元・愛媛のスポーツマガジン「E-dge(エッジ)」では愛媛FCのほか、Bリーグ・愛媛オレンジバイキングスの記事も担当する。

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