連載:J1・J2全40クラブの番記者が教える「イチオシ選手」

20歳のレフティ伊藤洋輝が急台頭 磐田のサッカーにどんな変化をもたらすか

高橋のぶこ

伊藤は188センチ・81キロと体格に恵まれ、フィジカル能力も高い。アカデミー育ちの逸材にクラブも大きな期待を寄せている 【(C)J.LEAGUE】

 若手の台頭が著しいジュビロ磐田にあって、特にその成長ぶりが目覚ましいのが伊藤洋輝だ。今季、期限付き移籍先の名古屋グランパスから復帰した20歳のレフティは、この中断期間中にも存在感をぐんぐん増しており、不動のダブルボランチである山本康祐と上原力也を脅かしつつある。左足のキックという絶対的な武器を持つ大器は、磐田のサッカーにどんな化学反応をもたらすか。

フベロ監督が「中心選手になる」と評価

「とても良いプレーヤーであることは間違いない。攻撃も守備もアグレッシブでフィジカルも強く、トータルの力が優れている。(私にとっては)新人だが、われわれが取り組んでいる戦術をいち早く理解して身につけてきてもいる。いまのプレーと努力を続けていけば、チームの中心選手になるだろう」

 フェルナンド・フベロ監督がそう評価し、頭角を現し始めている選手がいる。今季、名古屋グランパスから復帰した20歳のレフティ、伊藤洋輝だ。

 モンテディオ山形との開幕戦では先発出場はならなかったが、終盤にボランチとしてピッチイン。2点リードのまま試合を締めることに貢献した。開幕前や、「試合勘を維持するため(フベロ監督)」に数多く行っているこの中断期の練習試合でも、ときにはセンターバックやトップ下もこなして主力チームに食い込んできており、サブチームでは中盤で堂々と攻守をコントロール。昨季からのレギュラー陣を突き上げている若手の中でも一番の成長株と言えるだろう。

大胆なサイドチェンジと鋭い縦パス

 長身で、体躯(たいく)にも恵まれた大型ボランチは、高いパステクニックに支えられた攻撃の展開力が強み。なかでも重厚なキック音とともに左足から放たれる精度の高いサイドチェンジのロングパスは最大の武器。「自分の長所だし、監督にも求められている」と伊藤自身も自信を持つところだ。

 ボールを支配し展開する攻撃的サッカーを目指すフベロ監督は、ポゼッションしながら頻繁にサイドを変えて相手を横に揺さぶり、サイドを起点に崩す攻めをベーシックな戦術のひとつとしている。ショートパスをつないで左右にボールを動かすなかで、その経由地を1つ2つとばして一気にサイドに展開する伊藤のダイナミックなパスは、敵陣のスペースを素早く突き、また、相手を揺さぶってスペースを生み出すために非常に有効だ。

 その武器を磨く上で意識しているのは、「サイドチェンジの速さ(パススピード)とタイミング」と言う。

「パスのスピード(の速さ)で相手を剥がせる場面もあると思うし、(サブチームでは) サイドバックの選手が自分が顔を上げた瞬間にスピードを上げて走ってくれるので、周りのそういう動きにピンポイントで合わせてピッチを大きく使って攻めたい。受け手がもうひとつゴールに近いところで受けられるように、内側の足元につけることもいま意識していること」と語るパスは、今後チームにとっても大きな武器になっていくだろう。

 もうひとつ、練習試合のピッチでチャンスを生み出しているのが、相手にとって予想しにくい、機をとらえた鋭い縦パスを前線に入れるプレーだ。伊藤はそれを、昨季思い切って移籍をした名古屋で身につけることができたと言う。

「風間八宏監督(移籍当時)から、まずは真ん中を攻めるということを常に言われていたこともあって、1タッチで(縦パスを)刺せるようになった。ゴールに直結するプレーなので、それができるようになったことは攻撃面での自分の成長のひとつかなと思います」と伊藤。

「サッカーの楽しさやボールを持つ大切さを風間さんの下で再確認できた。その後を受けたイタリア人監督からは、フィジカルを含めた球際での強さや攻守の切り替えのスピードを求められた。サッカーをさらに深く考えられるようになったことも含めて、いろいろなことを学べてよかった」と、昨季を振り返る。

がむしゃらに若さを出していきたい

 シュビロ磐田ユースの出身。各世代の代表にも選ばれていた逸材のトップ昇格が発表されたのは、高校3年の夏。以降はユースの試合には出場せず、通信高校に編入しトップチームの練習に帯同した。

 プロ1年目の2018年1月、AFC U-23選手権に出場するU-21日本代表に選出され、北朝鮮戦で2アシストの活躍。しかし、磐田ではなかなか試合に出られず、2年目の昨季、「より高いレベル、厳しい環境で勝負したいという一心」で移籍を決意した。名古屋でのリーグ戦出場は2試合に止まったが、昨季の経験から伊藤は今後の活躍に生かせる多くの糧を得たようだ。

「フベロ監督のサッカーも楽しいですね。シンプルにサイドを変えることがボランチの役割だけど、そのなかで相手のスキを見て縦パスを刺していきたい。そうすることでサイドを空けることもできると思います。経験をたくさん積んでいる先輩たちのなかで、リラックスして思い切ったプレーが出せているし、名古屋での経験を無駄にしないという気持ちで日々学びつつ、がむしゃらに若さを出していきたい」

 そう語る伊藤の最終目標は、欧州で活躍すること。

「これまであまり試合に出ていなかったので、メディアの方から聞かれる機会もなかったけど、虎視眈々(たんたん)と狙っています」と、そのステップとして五輪のピッチを踏むことを目指している。

 今季の磐田ではボランチのレギュラーを務める山本と上原も好プレーを見せており、彼らの壁を打ち壊すことは容易ではないだろう。だが、開幕戦はFWルキアンと代わってピッチに入り、以降は小川航基が1トップとなり、3ボランチともとれる布陣となった。伊藤の台頭は、システムのオプションを増やすことにも繫がっていくかもしれない。

 物おじしないメンタルの強さ、ブレずに、一途に夢を追う熱さも魅力の20歳のプレーが、磐田のサッカーにどんな化学反応をもたらすか。再開後の大きな楽しみのひとつだ。

(企画構成:YOJI-GEN)
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著者プロフィール

ジュビロ磐田がJリーグに参入した1994年からマッチーデープログラム、サポーターズマガジンなどオフィシャル刊行物のライターを約20年務めた。現在はフリーランスとして取材を続ける。

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