大迫傑、独占インタビュー 限界への気付きが拓いた未来
大迫傑がこれまでのキャリアを振り返りながら、現在の心境を明かしてくれた 【水上俊介】
MGCへの評価は東京五輪の結果次第
「すごくホッとした」というのが率直な気持ちです。次の目標は明確になりましたけど、そこに向けてどうやって作っていくというのは、おそらく今までと変わらないと思います。ただ、今はまだ休んでいる段階なので、コーチと具体的な話はしていません。今は休むことと、創設する大会や計画中の育成プロジェクト(4月19日掲載の後編で詳報)にプライオリティーを置いています。
──昨年9月のMGCは3位に終わりましたが、3月1日の東京マラソンは自身の記録を21秒更新する2時間5分29秒の日本記録を樹立しました。東京五輪の代表に内定するまで、重圧を感じましたか?
MGCでパッと決められず、引き延ばしてしまった。正直「長かったな」という思いはありますね。
──MGCという東京五輪の選手選考システムは、日本の陸上界にとって大きな一歩だと思います。レースも盛り上がりました。選手としてはどのように感じていますか?
日本陸連(日本陸上競技連盟)が新しいことに挑戦したのは素晴らしいことだと思います。選考基準が明確になったことは評価したいですけど、大会が盛り上がったのは選手が頑張ったからであって、出場料や賞金などまだまだ不十分なところはあります。最終的にMGCが良かったかどうかの評価は、東京五輪の結果次第ではないでしょうか。
特別なマラソントレーニングはやっていない
ケニア合宿を経て挑んだ今年3月の東京マラソンで、2時間5分29秒の日本記録を樹立した 【写真:つのだよしお/アフロ】
単純に“新しい環境が必要だった”ということですね。いろいろなことにチャレンジするのは僕の性に合っているし、マンネリ化を防ぐのは大事なことです。あと、今冬のボルダーが寒かったからというのも理由のひとつです。「次もケニアに行くのか?」とよく聞かれますが、そのあたりはまだ分かりません。
──驚いたのが、ケニアに行ったのは今回が初めてだったそうですね。不安はなかったですか?
とりあえず行ってみて、しばらく滞在してから考えようと思っていました。比較的過ごしやすかったので、このままやってみようという感じでした。
──練習環境の違いは大きいと思いますが。
どうですかね。イテン(標高約2,400メートル)はボルダー(標高約1,655メートル)より標高は高いですけど、やることはそんなに変わりません。どこに行くかということよりも、何をするかが大切ですから。
──イテンでは多くのトップランナーが練習しています。
いろんな選手がいましたが、みんな自分のトレーニングに集中していました。過度に入れ込むことなく、いつも通りです。ただ単に練習場所が変わって、負荷が上がったという感じだと思います。
──生活環境で困ることはありましたか?
僕は最低限必要なものがそろっていれば大丈夫なんです。ケニアに行ったことがある日本人選手の中には「ひどかった」と言う人もいるみたいですが、いろんなことを求めすぎている気がします。安全な宿泊先さえ選べば、たまに水が出なくてもさほど困ることはありません。ただ、現地に“プライベート”で来たというメディアの方には、ちょっと参りましたね。
──“取材”ではなく“プライベート”で、ですか?
はい。そう言っていた記者と共通の知り合いを介して、一度だけ食事に行ったんです。そのプライベートな食事会での話題が記事化されてしまいました。これは僕の意図しなかったことだし、何よりアンフェアですよね。こういうことがあると取材を受けたいとは思えなくなるし、今の時代はメディアを通さなくても、皆さんに直接情報を伝えることができます。これからは、僕らアスリートがメディアを選ぶ時代になってくるのかなと感じています。
真摯(しんし)に応じ、冷静に考え、丁寧に言葉を選んでいる――。大迫と向き合った時間に抱いた感想だ 【水上俊介】
トレーニングに関しては、皆さんに情報を提供するというより、モチベーションを高めてもらう意味合いが強いです。公開しているトレーニングは、僕が4〜5年かけてようやくできるようになったメニューなので、すぐに実践するのは難しいと思います。それよりも「明日も頑張ろう!」というポジティブな気持ちになってもらいたくて。アプリのコンテンツはまだまだ不十分なので、これからもっと増やしていきたいし、今後はオンラインサロンもできたらいいなと思っています。
──そのアプリでは45キロ走を行い、ラップタイムを公表しています。マラソントレーニングはどういうことをやってきたんですか?
それはまだ秘密です。これまでも言ってきたことですが、マラソントレーニングはオーソドックスな距離走とスピード練習などを組み合わせて、バランスよくやっていくことが大事だと思います。詳細はアプリを通じて少しずつ伝えていく予定ですが、皆さんが想像しているほど、特別なことはやっていませんよ。