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ファジアーノの未来はCRM事業にあり!?
Jリーグ新時代 令和の社長像 岡山編

「J2で最もデジタルを活用したクラブにしたい」

北川社長になって一番の変化は集客のデジタル導入。その先には「新スタジアム構想」が
北川社長になって一番の変化は集客のデジタル導入。その先には「新スタジアム構想」が【宇都宮徹壱】

 ここまでの話を聞く限り、前任者の方針を踏襲しているように感じられる北川だが、一方で独自色が感じられるのが集客のアプローチ。木村時代の16年は、長年の目標としていた1試合平均1万人を超えたものの(1万17人)、17年は9,471人、そして18年は8,599人。とりわけ木村が退任した18年の数字を見ると、やはり「踊り場感」は否めない。ところが19年は、9,444人と逆に盛り返している。これは、北川が社長になって力を入れているCRM(顧客管理)事業の成果と見られる。


「僕はファジアーノを、J2で最もデジタルを活用したクラブにしたいんです。具体的にはCRM事業。Jリーグでも今、toC戦略をやっていて『チケットを3回買ったお客さんはリピーターになる』と言われています。ウチでも調べてみても、同じような結果が出ました。18年に1回だけ来た人は、次の年に来場しているのは28.9%。つまり71.1%は戻ってこない。逆に3回見に来た人は、81%の確率で次の年も来場してくれる。ですから今年も3つの山を作る必要があって、その意味でも開幕戦は特に重要ですね」


 そのための人材は、すでにそろえている。ファンエンゲージメント部部長の森繁豊は、IBMでのプロジェクトマネージャーから転身。年収が半減しても「木村さんが作ったこのクラブに魅力を感じたから」と、故郷のクラブで自身のナレッジを還元する人生を選んだ。


「CRMが事業としてスタートしたのは18年9月からです。チケッティングで得られるJリーグIDから、その人がいつ、どのチケットを購入したかというデータが取れます。それらを分析・検証して仮説を立てていけば、打ち手がイベントなのかキャンペーンなのか、あるいはプロモーションなのかを判断できるわけですね」


 前編でも触れたように、岡山時代の木村は「CRMよりも営業」というスタンスだったようだ。そのためか、森繁も入社当初は法人営業を担当していた(本人は『貴重な経験でした』と語っていたが)。しかし北川が社長を引き継いでからは、新たにCRM事業部を立ち上げるなどして、集客のデジタル活用が一気に進んだ。その先に見据えるのは、フットボール専用の新スタジアムへの道筋。北川は「これは僕らがほしいと言うのではなく、県民の皆様が本当に必要と感じているかどうかなんです」とくぎを刺した上で、こう続ける。


「お隣の広島では、カープの球場が新しくなったことで、平均1万人も入場者数が増えているんです。約70試合だから70万人増えたことになります。今や3万3000人のスタジアムが満員で、そうなると年間で約200万人以上の方が駅の周りに滞留することになります。それを街づくりの観点からどう考えていくかという話になるんですね。ウチの場合は、今のスタジアムが毎試合満員になって、初めてそういった議論になっていくと思うんです。そうした観点からも、われわれはここ数年、集客というものを強く意識していく必要があると思っています」

ボトムアップと見せかけながら、実はトップダウンだった?

二代目社長となって3シーズン目。北川氏は前社長の「したたかな戦略」に気づいた様子
二代目社長となって3シーズン目。北川氏は前社長の「したたかな戦略」に気づいた様子【宇都宮徹壱】

 電撃的な社長交代から2年。前任の木村がすっかり「Jリーグの人」となっていく一方で、岡山では社長3年目の北川が、独自のカラーをクラブに浸透させようとしている。2代にわたる社長就任に関与してきた森は、それぞれの時代を比較しながらこう語る。


「良きにつけ悪しきにつけ、社長の木村とGMの池上はカリスマでした。それと、統括本部長だった小川(雅洋)もそう。いわゆるベンチャー系で垂直推進型の組織にはそういう人材が必要だったのかもしれない。でも今のファジアーノは、特定のカリスマに頼り切るのではなく、いい意味で普通の会社になっていっているんだと思います。社内の雰囲気も、昔はかなりピリピリしていましたけれど、今はみんな生き生きしていますよね(笑)」


 ならば現社長は、どのように考えているのだろうか。木村退任後、確かに社員が結束して当事者意識を持つようになった。しかし北川は「ボトムアップと見せかけながら、実はトップダウンだったのではないか」と、木村のしたたかな戦略に気づいている様子だ。


「木村さんという絶対的なトップがいなくなって、これまで以上に社員は『全員経営』『全員営業』を意識するようになりました。30代後半から40代前半の若手部長も、ぐんぐん伸びてきています。もし木村さんが残っていたら、これだけの成長はなかったかもしれない。実はそこまで、あの人は考えていたのかもしれないですね」


 最後に、今回の取材に関して「宿題」を出してくれた、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の里崎慎のコメントをもって本稿を締めくくることにしたい。「BM(ビジネス・マネジメント)を担う北川さん、FM(フィールド・マネジメント)を統括する鈴木さんとの関係性というものは、われわれも注視していた分野でした」と語る里崎。「木村さんが確立したツートップ体制をいじらなかったことで、社長交代はスムーズだったようですね」とした上で、今後のクラブの発展に期待する旨のコメントを寄せてくれた。


「どんな社長でも、いつかは交代します。その時に『変えてはいけない事』『変わってはいけない事』がしっかり引き継いでいけないと、クラブは求心力を失って存在意義も薄れてしまう。だからこそ『仕組み化』は重要だと思います。岡山は今のところ、BMとFMの両輪はうまく回っているようです。これを社長とGMだけでなく、さらに組織としての仕組み化ができれば、岡山は今後も地域にとって重要なクラブになっていくと思います」


<この稿、了。文中敬称略>

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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