連載:スポーツマネジャーという仕事

ラグビーに根付く特有のファミリー文化 対戦相手もレフェリーも“みんな家族”

構成:大島和人

健闘を称え合い南アフリカ代表のファフ・デクラーク(前列右)に模造刀を贈呈した日本代表のリーチ・マイケル主将、ラグビーに根付くファミリー文化の表れだ 【©JR.Omura】

 東京2020オリンピックに向け、「スポーツマネジャー」としてラグビーの運営準備を進める松尾エイミさん。大会組織委員会における競技の運営責任者として、国内および国際競技連盟等との調整役を務めている。

 2019年9月20日から11月2日にかけて開催されたラグビーワールドカップ2019を通して、この競技への認知度は大きく上がった。オリンピックでは男女のセブンズ(7人制)が正式種目として採用されていて、12カ国ずつが参加する。今回は「ラグビーファミリー」というテーマで、松尾さんにお話しいただいた。

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「ノーサイド」は和製英語だった!?

「フェアプレーの精神」「ノーサイドの精神」「ワンフォーオール・オールフォーワンの精神」は日本でよく言われている言葉です。まさにラグビーのカルチャーです。

 相手をリスペクトして正々堂々と戦う。ゼロ点ゲームだったとしても最後まで攻め込んでいく。勝つと分かっていても力を抜かない――。そんな姿勢を皆さんもワールドカップでご覧になったと思います。

 ラグビーはフィジカルなコンタクトスポーツですよね。しかしながら、それがワンウェイ(一方的な試合)だったとしても、規律を守りながら両者が最後まで諦めない。それがラグビーのフェアプレー精神です。

 ラグビーワールドカップ2019では多くのドラマティックな試合がありました。全ての試合が素晴らしかったのですが、ワンウェイでも最後まで諦めないという点では、ニュージーランド対カナダ、イングランド対トンガはその例になるのではないでしょうか。プール戦(予選リーグ)では、ティア1と呼ばれるチームと、順位的に下のティア2チームとの試合が一部組まれていましたが、両チームは最後まで全力で戦っていました。

 次にノーサイド精神ですが、実は「ノーサイド」という言葉は和製英語なんです。日本でよく耳にすると思いますが、海外では「ノーサイド」というワードを使う事はありません。でも、日本でワールドカップが行われて「ノーサイド」の表現が逆に海外に広まっているようでした。「日本のノーサイドの精神」というカギカッコ付きですけれど、SNSで発信されていました。

試合後は敵も味方もない“ノーサイド” 【(C)World Rugby】

 試合終了後は敵味方なくお互いに称え合う――。それはラグビーに深く根付いた精神です。ワールドカップやオリンピックでは実施されませんが、通常行われている大会だと試合後に参加チーム及びマッチオフィシャルズ(レフェリーチーム)、関係者が一同に会して交流するポストマッチファンクションと言われるパーティーもあります。

 15人制ラグビーなら両チームとレフェリー、関係者が集まり、時には初キャップ(代表試合デビュー)選手の表彰をしたり、試合について語り合ったり、チーム間で文化交流を行います。セブンズについては大会に参加する全チームが集まって交流します。これもラグビーのユニークなカルチャーだと思います。

更にファミリー感が強いセブンズ

「ワンフォーオール・オールフォーワン」も、色々なところで聞くフレーズだと思います。ドラマ『スクール・ウォーズ』をご覧になった方ならよくご存知だと思いますが、自己犠牲の精神です。

 ラグビーでボールを繋いでトライを獲得するためには、一人がチーム全員のことを考えなければいけない。仲間が選手一人一人のことを考えなければいけない――。そういう精神です。海外でも「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン」の書き方でなかったとしても、ラグビーが持っているバリューの中に同様の精神は含められています。

 セブンズは普段のサーキット(ワールドラグビーセブンズシリーズ)でも、全チームがアスリートビレッジ(選手村)のような形で同じ宿舎に泊まって、同じエリアで全チームが食事を摂ります。大会中は敵も味方もレフェリーも、次に試合をするチーム同士も、同じエリアで食事やミーティングをします。見方によっては異様な光景かもしれないですね。それもセブンズ特有のノーサイドの精神の現れなのかもしれません。

 シリーズで世界を転戦していて、顔ぶれは大きく変わりませんから、みんな顔見知りだったりします。ですからセブンズはファミリー感がなおさら強いです。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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