藤田征樹が臨む最速60キロの孤高のレース パラサイクリングを熱くする勝利への執念
元F1レーサーのヒーローもいる魅力的な選手たち
同じ競技で切磋琢磨(せっさたくま)する仲間について語る藤田。多くの選手の走りを熱心に研究している 【写真:C-NAPS編集部】
F1レーサーなだけあって、コーナリングは非常に速いと思います。もちろんペダルを腕で回す力強さも素晴らしいですが、そもそもハンドサイクルは目線が地面に近いので、スピード感がものすごいはず。でももっと速いF1の世界で勝負してきただけあって、彼にとっては「遅く感じる」と聞いたことがあります。他にもイギリスのジョディ・カンディ選手(C4クラス、2017年に大英帝国勲章(OBE)受章)や、女子だと同じくイギリス人のデイム・サラ・ストーリー選手(C5クラス)らは健常者のトップ選手とそん色のない走りをするので、パラリンピックの際には、彼らをはじめとする素晴らしい選手たちに注目してみてください。
私と同じC3クラスでは、イギリス勢、オーストラリア勢、スペイン勢が強敵ですね。さらにドイツやイタリアの選手も強いので、本当に混戦になると思います。優勝候補は何人もいますが、その日のコースコンディションや戦況、天候を含めて誰が勝ってもおかしくないです。
選手の力が拮抗(きっこう)している中、自分としては得意種目のタイムトライアルで結果を出したいです。持ち味である独走力でスピードを維持しながら、ペースを刻んでいく走り方で勝負していきたいです。ロード競技では登りに強い選手や最後のスパートが強い選手、淡々と逃げを狙う選手などたくさんいますが、私の場合はある程度の距離が残っている段階で集団から先んじる展開になれば有利になるはずです。ぜひご声援いただければと思います。
願って届くものではないからこそ価値がある「勝利」
これまでの3大会すべてでメダルを獲得してきた藤田(左)。残すは金色に輝くメダルだけだ 【写真:ロイター/アフロ】
さらに今回は、自国開催の意義も大きいと思います。4年に一度しかないパラリンピックで、自分の国で、競技者として現役の時にチャンスがあるのは非常に恵まれています。健常者のレースも含めて、一般の方が日本で自転車競技を見る機会はまだまだ少ないと思うんです。五輪だけではなくパラリンピックも一緒になって、東京2020がいろんな人に自転車競技を楽しんでもらえる機会になったらいいなと思います。注目してもらうためにはやはり良い走りをする必要がありますし、金メダル争いができるように「しっかり準備したい」という強い思いで日々、過ごしています。
やっぱり、やるからには勝ちたいですよ。いろんな方にサポートしていただいているので、金メダルが獲得できたらうれしいですし、優勝という結果で恩返ししたいですね。だから「少しでも頂点に近づくためにはどうしたらいいだろう」と常に考えてトレーニングやレースに臨むことが大事だと思っています。願って届くものではありませんし、万全を期したからといって必ず手が届くものでもありません。でも、だからこそパラリンピックで勝つことには価値があるんです。
(取材・執筆:久下真以子/取材協力:STATION LOBBY)