連載:アスリートに聞いた“オリパラ観戦力”の高め方

藤田征樹が臨む最速60キロの孤高のレース パラサイクリングを熱くする勝利への執念

C-NAPS編集部

元F1レーサーのヒーローもいる魅力的な選手たち

同じ競技で切磋琢磨(せっさたくま)する仲間について語る藤田。多くの選手の走りを熱心に研究している 【写真:C-NAPS編集部】

 海外の選手では、アレッサンドロ・ザナルディ(イタリア)という選手が有名です。彼は元F1ドライバーなんですよ。シーズンを通してレギュラードライバーとして出ていた選手で、CART(米国トップカテゴリーのフォーミュラレース)でも2年連続チャンピオンに輝いた偉大なレーサーです。レース中の事故で両足を切断してからも、2年も経たずにレース復帰を果たしました。同時にパラサイクリングにも挑戦してロンドン(H4クラス)・リオ(H5クラス)と2大会連続で金メダルを獲っています。そういった背景も含めてユニークだし、ヒーローですよね。実は私もF1が好きで昔から見ていました。

 F1レーサーなだけあって、コーナリングは非常に速いと思います。もちろんペダルを腕で回す力強さも素晴らしいですが、そもそもハンドサイクルは目線が地面に近いので、スピード感がものすごいはず。でももっと速いF1の世界で勝負してきただけあって、彼にとっては「遅く感じる」と聞いたことがあります。他にもイギリスのジョディ・カンディ選手(C4クラス、2017年に大英帝国勲章(OBE)受章)や、女子だと同じくイギリス人のデイム・サラ・ストーリー選手(C5クラス)らは健常者のトップ選手とそん色のない走りをするので、パラリンピックの際には、彼らをはじめとする素晴らしい選手たちに注目してみてください。

 私と同じC3クラスでは、イギリス勢、オーストラリア勢、スペイン勢が強敵ですね。さらにドイツやイタリアの選手も強いので、本当に混戦になると思います。優勝候補は何人もいますが、その日のコースコンディションや戦況、天候を含めて誰が勝ってもおかしくないです。

 選手の力が拮抗(きっこう)している中、自分としては得意種目のタイムトライアルで結果を出したいです。持ち味である独走力でスピードを維持しながら、ペースを刻んでいく走り方で勝負していきたいです。ロード競技では登りに強い選手や最後のスパートが強い選手、淡々と逃げを狙う選手などたくさんいますが、私の場合はある程度の距離が残っている段階で集団から先んじる展開になれば有利になるはずです。ぜひご声援いただければと思います。

願って届くものではないからこそ価値がある「勝利」

これまでの3大会すべてでメダルを獲得してきた藤田(左)。残すは金色に輝くメダルだけだ 【写真:ロイター/アフロ】

 パラサイクリングは6月まで予選期間となるため、まだ東京パラリンピックの出場枠が決定していません。選手個人にではなく、まず国ごとに出場枠が与えられるので、一つでも多く枠を獲得するために日本代表チーム全員で努力を重ねているところです。これまで出場した3回のパラリンピックでも、メダルへのチャレンジはとても難しいものでした。東京でまだ手にしていない「パラリンピックチャンピオン」の称号を目指す意味でも、今までよりもさらに難しく厳しいチャレンジになるはずです。

 さらに今回は、自国開催の意義も大きいと思います。4年に一度しかないパラリンピックで、自分の国で、競技者として現役の時にチャンスがあるのは非常に恵まれています。健常者のレースも含めて、一般の方が日本で自転車競技を見る機会はまだまだ少ないと思うんです。五輪だけではなくパラリンピックも一緒になって、東京2020がいろんな人に自転車競技を楽しんでもらえる機会になったらいいなと思います。注目してもらうためにはやはり良い走りをする必要がありますし、金メダル争いができるように「しっかり準備したい」という強い思いで日々、過ごしています。

 やっぱり、やるからには勝ちたいですよ。いろんな方にサポートしていただいているので、金メダルが獲得できたらうれしいですし、優勝という結果で恩返ししたいですね。だから「少しでも頂点に近づくためにはどうしたらいいだろう」と常に考えてトレーニングやレースに臨むことが大事だと思っています。願って届くものではありませんし、万全を期したからといって必ず手が届くものでもありません。でも、だからこそパラリンピックで勝つことには価値があるんです。

(取材・執筆:久下真以子/取材協力:STATION LOBBY)

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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