藤田征樹が臨む最速60キロの孤高のレース パラサイクリングを熱くする勝利への執念
パラリンピック・自転車競技で3大会連続のメダル獲得を成し遂げた藤田征樹が、競技の魅力と金メダルへの思いを語る 【写真:C-NAPS編集部】
藤田はトライアスロンサークルで活動していた大学2年の夏に自動車事故に遭った。その影響で両膝から下を切断したが、その3カ月後にはもう訓練用の義足で自転車にまたがるなど、すぐさま競技者としての才覚の片りんを見せた。2年後の2006年に義足でトライアスロンの健常者レースに出場すると、翌07年にはパラサイクリングの日本代表入り。そして、08年の北京パラリンピックでは2つの銀メダルと1つの銅メダルを獲得し、全競技を通じて「日本人初の義足メダリスト」という快挙を成し遂げた。
35歳で迎える4度目のパラリンピックで目指すのは、まだ手にしたことのない金メダル。チャンピオンスポーツとしても名高い自転車競技において「勝つこと」に特別なこだわりを持つ藤田に、競技観戦のポイントや金メダルへの思いを語ってもらった。
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パラリンピックでは全13クラスで50種目が行われる自転車競技
トラック競技は「バンク」と呼ばれるすり鉢状の屋内競技場で行われる 【Getty Images】
パラサイクリングにも障がいによるクラス分けがあります。四肢の切断やまひなど運動機能に障がいのある選手が通常の二輪自転車を使うCクラス(C1〜C5クラス)。まひなどで体幹に重度な障がいのある選手が三輪自転車を使うTクラス(T1・T2クラス)。視覚障がい選手が2人乗りの自転車を使うBクラス。下肢に障がいのある選手が手でこぐハンドバイクを使うHクラス(H1〜H5クラス)。全部で13クラスあり、アルファベットの後の数字が小さいほど障がいの程度が重くなります。僕はC3クラスに属しています。
トラックは「タイムトライアル」「パシュート(追い抜き)」「チームスプリント」という種目に分かれています。タイムトライアルは男子なら1キロ、女子なら500メートルを「いかに速く走るか」というシンプルな種目です。バンク1周が250メートルなので、1キロだと4周走ります。
パシュートは決められた距離(男子のBクラスとC4・C5クラスが4キロで、それ以外のクラスは3キロ)で行う対戦型の種目です。トラックの反対側に位置した2人の選手が同時にスタートしてタイムを競います。予選の上位4人が優勝決定戦・3位決定戦に進み、一対一の対戦型で先にどちらかがゴールした時点で勝負が決まります。また、途中で相手選手を追い抜いたらその時点で勝利確定です。力の差が大きい場合や、距離を考えず相手を抜くことに集中する戦法を採用した際には追い抜きが起こりえます。
スタンドで観ると、2人の選手がゴールラインをすれ違うタイミングが同一視野で確認できるので差が分かるんです。その差をリードしたり詰めたりというマッチレースは緊迫感がありますし、観戦する方も鳥肌が立つしびれる展開になると思います。
一般道を走るロードは、外的環境にも左右されやすい競技。ロードレースはクラスによっては最長100キロ以上にもおよぶ 【写真:アフロスポーツ】
例えば、私が走ったリオのタイムトライアルのコースは上り坂のないフラットで真っすぐなコースだったんですけど、富士スピードウェイは比較的アップダウンがあります。それに屋外なので天候も関係します。風の有無や気温、晴れなのか雨なのか……そうした外的環境もレースの結果に大きく影響してきます。東京パラリンピックの時期は9月なので、きっとまだ暑いはずです。
パラサイクリングでは最高時速が60キロ以上のスピードが出るので、疾走感や爽快感についてよく尋ねられます。でも実はそうした感覚を味わう余裕はなくて、レース中はひたすら苦しいんですよ(笑)。すごくしんどいんですが、その苦しさの先に自分が求めている勝利があるので。自分を保ちつつ勇気を持って、ペダルをこぎ続けています。
そうした選手たちの「あと一歩」を繰り出す勇気に、観客のみなさんも心を打たれるのではないかと思います。私もいろんなレースを見ますが、「この人すごいな」と勝利への執念に感動することもあります。そうした選手のコンマ何秒を縮めるための熱量や気迫を身近で感じられる点もパラサイクリングの一つの魅力ではないでしょうか。