連載:アスリートに聞いた“オリパラ観戦力”の高め方

谷真海が思いを馳せる東京2020の青写真 パラトライアスロンで実感する声援の力

C-NAPS編集部

自分より障がいの軽い選手たちとの争いも「なるようになる」

障がいの軽い選手との出場枠争いにも、凛とした表情で「なるようになる」と前を向く 【写真:C-NAPS編集部】

 肢体障がいは4クラスあると説明しましたが、実は女子の場合、PTS2とPTS5(PTS3、PTS4を含む)の2クラスだけがパラリンピックの対象クラスなんです。私は右ひざ下の切断でPTS4クラスに属しているので、パラリンピックを目指すうえではPTS5の障がいが軽い選手たちと枠を争わなければなりません。

 同じ土俵で戦うのは厳しい道のりではありますが、PTS4クラスのレース自体の開催が取りやめになった2018年の夏時点に比べれば、だいぶ道が開けました。出場に向けてチャレンジできる立場になれたので、最後まで全力を尽くしたいですね。結果はどうなるかは分からないですけど、それが人生ですから。「なるようになる!」と信じて頑張っています。

 パラリンピックにも絶対に出場するであろう注目選手は、PTS5クラスの上位ランカーですね。中でもイギリスのクレア・キャッシュモアとローレン・ステッドマンは義手の選手で、ワンツーを争っています。彼女たちはスピードがすごくあるので、「パラ」であることを感じないかもしれません。バイクの乗り方一つにしろ、走り方にしろ、スイムにしろ。日本のコーチたちも「健常のレベルだね」と驚いていました。

 前回のリオデジャネイロの金メダリスト、グレイス・ノーマン(米国)にも注目です。彼女は義足ですが、クラスはPTS5。イギリスの二人に食らいつくスピードがあるので、見物ですね。ランを得意としているので、是非、スパートに注目してみてください。

東京2020開催は「一人一人の意識が変わる機会」になると信じて

太田雄貴さん(左)や滝川クリステルさん(左から二番目)らとともに東京2020招致にも貢献した谷(右) 【Getty Images】

 東京2020の開催が決まった2013年の招致活動でプレゼンターを務めたことは、私の意識を大きく変えましたね。フェンシング銀メダリストの太田雄貴さん(現・日本フェンシング協会会長)や滝川クリステルさんらとともにチームとして関わらせてもらったことで、東京2020成功への思いはより強くなりました。「アスリートとして舞台に立ちたい」という思いはもちろん、「メインスタジアムが満員の観客で埋め尽くされてほしい」とか、「車いすバスケの試合が満員になればいいな」など、本当に色んなことを考えています。あのスピーチの場に立ったからこそ、大会そのものの成功を夢見ているのだと思います。

 私の中では、12年ロンドン大会のインパクトがすごく強いですね。パラリンピックのチケットが連日売り切れ状態だったので、「これは世の中が変わるな」と大きな可能性を感じました。「パラリンピックの意義」は大会の成功だけではなく、「みんなの意識を変えて、一人一人が尊重しあえる社会づくりに貢献すること」なんだと実感したので、その思いを翌年の招致スピーチでもぶつけました。

 東京での開催決定から6年が経って、日本でもメディアでパラスポーツが取り上げられる機会は増えました。でも、まだ「パラスポーツのルールやクラス分けがよく分からない」「興味はあるけど観に行ったことがない」という人の方が多いと思います。でも、ルールなんて詳しくなくてもいいじゃないですか。ラグビーワールドカップ2019日本大会だって、“ニワカファン”の盛り上がりが大会を支えましたよね。ラグビーを知っているかどうかが重要ではなく、日本代表の一体感や強豪国に立ち向かっていく勇気に、多くの人々が心を動かされたはずです。

 パラスポーツにおいても会場に足を運んでいただくことで、選手たちはもちろん、観客のみなさんも何かしらエネルギーをもらえる部分が必ずあります。だからこそ、深いことは考えずに「遊びに行く感覚」で観戦を楽しんでもらいたいですね。そういう意味では“ニワカ”でもいいんです。「障がい者がスポーツをしている」と考えると身構えてしまう人が多いと思いますが、一競技者たちによる世界の頂点を目指した戦いを楽しんでもらえればそれで十分。「“ビール片手に”観戦する!」くらいの気持ちで会場に足を運んでほしいですね。会場での声援が選手一人一人の力になりますから。

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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