「負けない」サッカーに徹したFC今治 JFLラストゲームで見た夢スタの風景

宇都宮徹壱

「13勝12分け5敗」をどう見るか?

「負けない」サッカーに徹してJ3昇格を果たした小野監督。長いシーズンを終えての胸中やいかに 【宇都宮徹壱】

 かくして、今治にとって最後のシーズンとなった、第21回JFLが無事に終了。今季の今治を総括する前に、まずはJFL全体をおさらいしておくことにしたい。優勝したHonda FCは、史上初の4連覇。2位のソニー仙台FCに、8ポイント差をつけての圧倒的な強さであった。以下、今治が3位、東京武蔵野シティFCが4位、テゲバジャーロ宮崎が5位となった。このうち武蔵野は今季はJ3ライセンスを得ながらも、平均入場者数が条件に達しないことが判明して、シーズン終了前にギブアップ宣言。成績面ではクリアしていただけに、関係者の思いは複雑であろう。

 今季は今治のみがJ3昇格となるため、JFLから地域リーグへの降格は1チーム。15位の松江シティFCと16位の流経大ドラゴンズ龍ケ崎は、わずか2ポイント差で最終節での直接対決となり、アウェーの松江が1-0で勝利して残留を決めた。そして地域CLの結果、1位のいわきFCと2位の高知ユナイテッドSCがJFLに昇格。ちなみに高知には、かつて今治に所属していた長尾善公が活躍しており、地域CLの決勝ラウンドでは2ゴールを挙げて昇格に貢献している。

 さて、今季の今治の戦いを振り返った時、目を引くのが引き分けの多さだ。30試合で13勝12分け5敗。これだけドローが多いのは、JFL1年目の17年以来のことだ(12勝12分け6敗)。ちなみに18年は14勝7分け9敗で、得失点差は+31(63得点、32失点)。今季は+15(41得点、26失点)である。得点と失点が減少した一方で、勝ち点を50まで積み上げたのはJFL3シーズン目にして初めて。今季の今治は「勝ちきれない」ではなく、「負けない」サッカーに徹していたと考えるべきだろう。

 今季最も難しかった試合として、小野剛監督が挙げたのが0-0に終ったFC大阪との開幕戦(アウェー)。指揮官いわく「ディフェンスの裏にロングボールを入れてくる戦術を徹底されて『これがJFLなのか』と思いました」。前半戦は個の力とスカウティングでねじ伏せることができたが、後半戦は相手のロングボールと前線からのプレッシングに苦しみ、勝てない試合も続いた。それでも、しぶとく勝ち点1を積み重ねた先にあったのが、悲願のJ3昇格。この日の青森戦は良くも悪くも、今季の今治を象徴する試合内容であった。

試合後のセレモニーで感じたこと

今季限りで今治を去るたち選手たち。クラブの方針転換で出場機会を減らした選手も少なくない 【宇都宮徹壱】

 再び、夢スタにて。試合後、選手とスタンドのファンとの記念撮影が行われた。両ゴール裏とメーンスタンドを移動しながら、撮影が終わるたびに選手たちは最前列のファンとハイタッチする。そこには、はちきれんばかりの笑顔の子供たちの姿があった。夢スタの最前列は、他のJFLクラブに比べて子供の比率が高い。ゴール裏のサポーターに聞いた話では、あえて最前列に子供たちを集めて皆で応援しているという。10年後、あるいは20年後、この子たちがどう成長しているのか、今から楽しみだ。

 その後、矢野将文社長のあいさつを挟み、退団選手のセレモニーが行われた。今季限りで今治を去るのは、内村と太田以外に6名。金子雄祐、上村岬、水谷尚貴、クラッキ、向井章人、中野雅臣である。このうち上村と金子は4年目。彼らが今治にやって来た時、クラブは地域リーグを戦っていた。「(四国リーグ時代の)桜井のグラウンドに2000人集まった時、そして夢スタのこけら落としに5000人集まったときの感動は忘れられません」と金子が語れば、上村は「このチームでJ1まで行くのが夢でした」と無念をにじませる。

 決して長くはないフットボーラーのキャリアを考える時、4年という歳月が持つ意味はそれなりに重い。金子は大卒で、上村はジュビロ磐田から期限付きで入団(2年目に完全移籍)。当時の今治は吉武博文監督の指揮の下、ポゼッションとパスワークで相手を圧倒するスタイルを志向しており、彼らもそのサッカーに順応していく。しかし監督が変わり、クラブも「現実路線」に舵を切るようになると、次第に彼らの出番は減っていった。果たして来季の今治は、どのようなサッカーを志向するのだろうか。

 そういえば試合後のセレモニーで、とうとう岡田代表は姿を現すことはなかった。おそらく今年から「クラブの顔」としての役割を、完全に矢野代表に移譲したのであろう。それはそれで正しい判断だとは思う。しかし一方で、岡田代表には確認しておきたいことがあったのも事実。まず、今季の評価と来季以降のチームの方向性。そして今季最大のミッション「J3昇格」への関与の有無も知りたいところだ。いずれにせよ、いくつかの疑問を残しながらも、今治の19年シーズンは終了。来年、Jリーグの会場となった夢スタに再訪する日を楽しみに待つことにしたい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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