俊輔、憲剛ではなく、ヒデと僚太!? 水沼貴史が選ぶJ史上最高の名手たち

飯尾篤史

首をバーベルで鍛えるほどのこだわり

空中でぴたりと止まる様子は“ヘリコプター”のよう。長谷川祥之(写真手前)は“全方位対応ヘッド”として名を馳せた 【(C)J.LEAGUE】

■水沼貴史が選ぶ歴代ヘッダー
長谷川祥之(鹿島)
秋田豊(鹿島、名古屋など)
小村徳男(横浜FM、仙台など)
中澤佑二(V川崎、横浜FMなど)

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 続いてヘッダー……僕はヘディンガーって呼ぶんだけど、最初に思い浮かんだのは長谷川祥之です。滞空時間がハンパなかったからね。今、そういうFWはあまりいないんじゃないかな。フワーッと上がってパーンと打つ。そんなイメージがあります。

 次は秋田豊かな。オム(小村徳男)も入れたいところだけど、まずは秋田。秋田は競り合うとき、後ろから「オリャー!」って叫びながら飛んでくるから怖い(笑)。昔、「スーパーサッカー」という番組の「オレキン」というコーナーで「ヘディングでどれだけ飛ぶか」というのをやったんです。ゴールキックを蹴ってもらって、それをヘディングで跳ね返すんだけど、秋田は50メートルくらい飛ばした(笑)。首をバーベルで鍛えていて。一芸ですよね。ヘディングに相当なこだわりを持っていた。

 オムも強かったし、ハットトリックを決めるくらい得点力もあった。実は180センチちょっとしかないのに、あれだけヘディングが強いのは、飛ぶタイミングやポジショングを相当考えていたんだと思います。あと、オムもミニゲームをやると、意外にうまい(笑)。でも、それを出さずにストッパーに徹してやれるところも良かった。

 その次が中澤佑二。なんたって「ボンバーヘッド」と言われるくらいですから。佑二は自己管理力がすごい。自分のヘディングを生かすにはコンディションだということを理解していて、常に自己管理している。練習にはすごく早く来て事前にしっかり準備して、終わってからもしっかりケアして最後に帰る。

 佑二も僕が監督だったときに選手としていたんですけど、佑二のところにボールが上がったら「絶対に勝つな」と安心して見ていました。

 番外編としては、高木琢也。ヘディングはもちろん強いんだけど、衝撃的だったのは、ジャンピング胸トラップ。これを最初にやったのは、高木なんじゃないかな。ヘディングするだろうと思っていたら、飛んで胸でトラップしちゃう。そんな選手も今、あまり見なくなりましたね。

 面白いのは、ハーフナー・マイク。マイクも僕がマリノスでコーチ、監督をやったときにいた選手なんだけど、ヘディングしかないと思われるのが嫌なんですよ。194センチもあるんだからヘディングを武器にすればいいのに、「いや、俺、左足もすごいですから」って。小さい頃から背の高さがコンプレックスだったんじゃないかな。少しでも小さく見せたかったのか、猫背でしょう。もちろん、左足も良いものを持っているんだけど、もったいないな、と思っていました。

PKよりもFKのほうが決まる

水沼氏の日産、横浜M時代の先輩にあたる木村和司。Jリーグ夜明け前の日本代表の10番で、スター選手だ。 【写真:アフロ】

■水沼貴史が選ぶ歴代フリーキッカー
木村和司(横浜M)
中村俊輔(横浜FM、磐田など)
三浦淳宏(横浜F、神戸など)
澤登正朗(清水)

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 FKは木村和司さんです。これは、どうしようもない(笑)。次が俊輔で、その次がアツ(三浦淳宏)とノボリ(澤登正朗)。

 和司さんはPKよりもFKのほうがゴールの確率が高い。一緒にやっていて、本当にそう思っていましたから。ペナルティーエリアのちょっと外がいい。「(ファウルをもらうなら)中じゃない、外でもらえ!」みたいな。壁があったほうがGKと駆け引きができるんでしょうね。巻いたキックの精度は本当に高かったから。

 和司さんが県工(広島工業高)の3年で、僕が浦和南高の1年だったとき、インターハイで対戦したんです。和司さんはその頃、右ウイングだったけど、タッチラインのほうにドリブルしながら、センタリングを上げてくる。その角度でどうやって蹴れるんだって。要は、腰が回るんです。それで鋭く曲がるボールを蹴れる。それが後々FKにつながっていくんですね。1985年の日韓戦で決めて、FKが和司さんの代名詞になった。

 和司さんもよくFKの練習をしていたけど、俊輔も練習の虫。ボールを蹴る量が他の人とは全然違う。それに俊輔は年々、進化していますよね。ボールの蹴り方や角度、足の入れ方や踏み込み方。つま先のどのへんで、真横がいいか、少し後ろのほうがいいかとか。

 俊輔もCLのマンチェスター・ユナイテッド戦という大舞台でFKを決めている。技術もさることながら、ああいう舞台で、普段どおり蹴れるメンタルもすごいと思います。

 アツはインサイドで蹴って落とすFKを武器にした最初の選手だと思います。無回転でドンと落とす。しかも、インサイドキックで。今でこそ、ボールも進化して無回転ボールを蹴りやすくなったけど、昔はブレ球になりにくかった。本当に真芯をインパクトするとブレ球になったけど、何回も連続して蹴れるようなボールじゃなかった。それをアツが「狙って蹴る」というところまで持っていったのはすごいと思います。

 ノボリもFKのコントロールが素晴らしかった。FKの精度を競う「スーパーサッカー」の「バナナキングコンテスト」で“40数バナナ”を記録しましたからね(笑)。ノボリも磐田とのチャンピオンシップでFKを決めていますよね。そういう大舞台で決める勝負強さも持っていた。

 番外編としては、クラウジオ。「スーパーサッカー」の「スピードキング」で時速141キロを出したんです。ボールをセットして、助走に入ったとき、どんな球が来るんだろうとか、「壁は怖いだろうな」って本気で思わせる選手(笑)。

 そういう意味では、ボールをセットしたときにスタジアムをザワつかせられるのも、一流のキッカーの証しかもしれません。ラグビーのコンバージョンゴールもそうだけど、スタジアムの注目を一身に集めるわけでしょう。それで決めるというのは、技術と度胸、両方そろっていないと難しいわけですから。

水沼貴史(みずぬま・たかし)

1960年5月28日生まれ。埼玉県浦和市出身。法政大学卒業後、83年に横浜F・マリノスの前身である日産自動車サッカー部(JSL1部)に入団。ドリブラーとして鳴らし、木村和司、金田喜稔らとともに黄金時代を築く。84年にデビューした日本代表では通算32試合・7得点を記録。95年に現役を退いた後は、主に解説者やTVのコメンテーターとして活躍。古巣の横浜FMや母校の法政大学で監督、コーチを務めた経験もある。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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