元中日助っ人が選手を売る「ブスコン」に 野球大国・ドミニカ共和国の真実

石原豊一
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ドミニカにも高校野球はあるが……

ナニータ(写真右)が期待するプロスペクト、エドワード・ペルドモ。Tシャツのロゴマークはナニータが日本で金子千尋(現・弌大。当時オリックス)からホームランを打った際のシルエットをデザイン化 【石原豊一】

 幾多のメジャーリーガーを輩出し、「野球大国」としてその名を馳せているドミニカ共和国。町を歩けば元プロ野球選手に当たるというこの国だが、それは若者をメジャーリーグに「売る」ことで産業が成り立っていることを意味する。

 メジャー各球団がドミニカだけでなく世界各地から青田買いしてきた「選手貯水池」として機能しているアカデミーでは、千数百名の若い選手たちがルーキー級に位置付けられるドミニカン・サマー・リーグを戦う。このリーグでプレーする選手の年齢層の中心は16〜18歳。それはさながら「ドミニカの高校野球」だ。

 しかし、そこには日本のそれのような華やかさも青春ドラマもない。そこにあるのはアメリカンドリームをつかむ野心だけだ。ここで生き残った者はメジャーリーガーという億万長者への道に進む切符を手にする。
 ここでプレーするほとんどの者は、夢半ばにしてキャリアを終えるが、貧困と格差にさいなまれるドミニカ社会にあって、彼らを「敗者」とすることはできない。なぜならば、彼らの多くはメジャーリーグ球団と契約した時点で、一般のドミニカ人が一生かかっても手にすることのできない、邦貨にして数千万円の契約金を手にしているからだ。

 この国には学校スポーツはない。したがって野球でのキャリアパスを進んでいくには、地元の少年野球からメジャーリーグ・アカデミーへの橋渡し役が必要となる。各地の有望株の情報をメジャー球団に売る、あるいは有望株を早期に囲い込み、契約金から「育成料」を取るブローカーを「ブスコン」という。

 彼らの存在はかつては否定的に捉えられることが多かったが、現在では、ドミニカ野球界にあって確固たる地位を占めている。現在この業種には成功した元プロ野球選手が参入しており、彼らは現役時代の蓄えを元に、自ら野球場と寮を兼ね備えた私設アカデミーを運営。トライアウトで選抜した10代前半の少年たちの衣食住の面倒を見て、野球の手ほどきをした上で、メジャー球団に送るビジネスを展開している。
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著者プロフィール

立命館大学大学院国際関係研究科修了。国際関係学博士。専門は、スポーツ社会学・スポーツ産業学。著書に『ベースボール労働移民―メジャーリーグから「野球不毛の地」まで―』(河出書房新社)がある。

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