敗れても誇り…日本代表の「ONE TEAM」 元日本代表・藤井淳の南アフリカ戦解説

構成:スポーツナビ

現代ラグビーで重要な“駆け引き”

日本代表の司令塔であるSO田村優(左)とFB山中亮平。さまざまなアタックで南アフリカに挑んだ 【Photo by Yuka SHIGA】

――南アフリカのディフェンスを攻略する方法はあったのでしょうか?

 相手がディフェンスラインを速く上げてくるので、キックパスで一気に外に運んだのは良い作戦のひとつだったと思います。

 個人的には、中盤付近で相手のディフェンスラインの裏へのチップキックも試して良かったと思いました。南アフリカのFBウィリー・ルルー選手は後ろに下がっていて、そのエリアをカバーする選手の一人であるSHのファフ・デクラーク選手は密集周辺やディフェンスラインに入って前に出るタイプの選手なので、スペースがあったのではないかと思います。
 一度のキックでは成功しないかもしれませんが、相手にそのスペースを意識させることが大事になります。

――日本が武器としていた連続攻撃の部分では?

 コンタクトで劣勢だったので難しいと思いますが、速く上がるディフェンスラインに対して、縦に切り込む動きが欲しかったです。密集周辺でゲインラインを切ることができれば、外のディフェンスラインは出足が遅れます。

 また、CTB中村亮土選手をシンプルに当てるプレーを増やすのも面白かったと思います。彼は前に出る力も、ボールを出すためのスキルもあるので。
 4年前はCTBだった立川理道選手が何度も南アフリカのSOハンドレ・ポラード選手に当たって、それが布石となって決まったサインプレーもありました。ポラード選手は今日も出ていましたが、他の選手と比べるとディフェンスは強くないので、今回も中村選手を当てるプレーは効果を生んだかもしれません。

――ラグビーはスピードやパワーが目につきますが、駆け引きの重要性が増していますね。

 もちろん、スピードやコンタクトの強さがある方が有利なのですが、味方が「強く当たるため」「速く走るため」の駆け引きが今のラグビーでは重要になっています。いろいろな手を打って、それを布石として、良い状態で勝負する。そうした作戦を立てるのが今回の日本代表はすごくうまかったですし、選手も良く実行していたと思います。

後半に陥った負のサイクル

後半は南アフリカの力強いモールが威力を発揮した 【Photo by Yuka SHIGA】

――後半は自陣に押し込まれる時間が増えて、点差を広げられました。

 スクラムやラインアウトといったセットプレーで、南アフリカがさらに優位性を発揮してきました。中盤からコンテスト(相手と競る)キックを蹴って、再獲得できればチャンスになる、日本に取られてもディフェンスでプレッシャーをかけて、ラインアウトになればボールを奪える……という感じです。

 日本代表としては前半から南アフリカと激しく当たっていたので疲れも出ていたと思います。そうなると南アフリカのラインアウトモールを止められなくなり、負のサイクルに入ってしまいました。

――日本にとって初のワールドカップ5試合目ですし、疲れもあったようですね。

 注目度が高まっていることによる疲れや緊張もあったと思います。今日の南アフリカ戦は厳しい試合になりましたが、気持ちが切れることなく、最後までチームとしてできることを続けたのは日本代表の良い点だと思います。

日本ラグビー全体で「ONE TEAM」に

38歳のトンプソン ルークと25歳の具智元。出身国も年齢も違う選手たちが「ONE TEAM」となって戦った 【Photo by Yuka SHIGA】

――日本代表の4強進出はなりませんでしたが、どんなチームでしたか?

 心から誇りに思えるチームでした。アイルランド戦の後も話しましたが、世界を相手に勝ちにいく彼らのマインドが素晴らしいです。優勝候補のアイルランドに勝ち、その後のタフなサモア、スコットランドに勝つことで、ファンの方々も日本代表の勝利を信じ、応援する気持ちが強くなっていったと思います。
「ONE TEAM」という彼らの言葉と思いが、日本中に広がりました。

 私は日本代表に選ばれた時期は短かったですが、代表と所属チームの両立は大変でしたし、体力的に厳しく、家族と過ごす時間がとれないということもありました。信念を持ってやり抜いた彼らを尊敬しますし、本当に良いチームだと思います。

――これからの日本代表については?

 今回でスタンダードがまたひとつ上がったので、今度は「ワールドカップの決勝トーナメントで勝てるチーム」を目指すことになります。

 ラグビー全体の注目度が上がっているので、4年前のように「トップリーグのチケットをファンが買えなかったのに、満員にならなかった」ということはないようにお願いしたいです。協会やリーグの運営のことは私はわからないので、生意気な意見であることは承知していますが、ラグビーの魅力を伝えるためにみんな動いていて、代表が一番良い形で日本中に広げてくれたので、ここでまた後戻りするのはもったいないです。

 これからも大変なことはあると思いますが、選手もファンも運営の方々も、日本代表もそれぞれの所属チームも、みんなが協力して、日本ラグビーが「ONE TEAM」としてより良い形になっていってほしいと思います。

(取材・文:安実剛士/スポーツナビ)

藤井淳/JunFujii

東芝ブレイブルーパスで活躍した藤井淳氏。2012年にはエディー・ジョーンズHCにより日本代表に選ばれ、6キャップを獲得した 【写真:アフロスポーツ】

 1982年8月10日生まれ。身長170センチ、体重77キロ。愛知県出身。西陵商高‐明治大‐東芝ブレイブルーパス。

 西陵商高時代に全国大会に出場、明治大では抜群のスピードを生かして活躍した。東芝ブレイブルーパスでは強気のリードでFWをまとめ、ディフェンス面も向上。2012年にはエディー・ジョーンズHCにより日本代表に選ばれ、6キャップを獲得した。2019年に現役引退。

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