本拠地を譲ってくれたJクラブへの感謝 サッカー脳で愉しむラグビーW杯(10月19日)

宇都宮徹壱

「ベストのキャリア終焉の地」となった東京スタジアム

試合終了後の東京スタジアム。翌日は日本対南アフリカのゲームで、会場はさらに盛り上がるはずだ。 【宇都宮徹壱】

 しかし試合が始まると、すぐさまニュージーランドが主導権を握るようになる。

 前半6分、リッチー・モウンガがペナルティーゴールを決めて3点先取。さらに14分には、ゴール前の密集からアーロン・スミスが初トライ、さらにゴールも決まって点差は10点に広がる。その後もニュージーランドの猛攻は続き、前半20分にはスミスが2つ目のトライに成功。32分には、連続キックからフルバックのボーデン・バレットがトライを決める。モウンガのコンバージョンキックは、前半の3本のうち2本が成功し、前半は22−0で終了。アイルランドは屈辱的な無得点でハーフタイムを迎えた。

 戦前は、もう少しイーブンな戦いになると予想していた。アイルランドは2016年と18年のテストマッチで、オールブラックスに勝利していたからだ。しかしフタを開けてみると、この日のチャンピオンにはまったくスキがない。後半8分と21分にもトライが決まり、両者の点差はさらに広がる。アイルランドは後半29分、ロビー・ヘンショーによる意地のトライでファイティングポーズを保つが、オールブラックスはその4分後に連続オフロードパスによるトライで突き放す。アイルランドの反撃は、後半36分のペナルティートライ(認定トライ)による7点が最後。終了間際にはニュージーランドがこの日7つ目のトライを決め、46−14でノーサイドとなった。

 ラグビーW杯では、試合後のラッシュインタビューに応じるのは、両チームのキャプテンと決まっている。アイルランドのキャプテン、ロリー・ベストにマイクが向けられた時、スタンドからひときわ大きな歓声が挙がった。実はベストは、今大会で現役を退くことを宣言している。今年で37歳。アイルランド代表には05年にデビューし、初めてキャプテンに任命されたのは09年から。キャップ数が123に及ぶレジェンドの引退は、アイルランドのラグビー界にとって、ひとつの時代の節目となるはずだ。

 多くのアイルランド人は、東京スタジアムを「ベストのキャリア終焉の地」として記憶することだろう。その舞台を提供することに同意し、厳しいアウェー戦を戦っているFC東京(そして東京ヴェルディ)には、あらためて感謝したい。そして、勝利したニュージーランド。彼らの進軍を止められそうなのは、オーストラリアを40−16で退けてベスト4に一番乗りを果たした、イングランドだけのような気がする。この難敵を準決勝で打ち破ったなら、オールブラックス3連覇の視界は一気に開かれるだろう。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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