走り幅跳びで22年ぶり快挙の日本勢 アスリート一家の橋岡、狙うは師匠超え

スポーツナビ
 陸上の世界選手権が現地時間27日にカタール・ドーハで開幕した。男子走り幅跳びで、日本歴代2位の記録を持つ橋岡優輝(日本大)は、2回目で8メートル07(向かい風0.7メートル)をマークし、全体3位で決勝に進出。日本記録保持者の城山正太郎(ゼンリン)も、7メートル94の全体8位で決勝に駒を進めた。津波響樹(東洋大)は全体18位で予選落ちとなった。

 日本人選手の決勝進出は、橋岡のコーチを務める森長正樹氏が1997年に進んで以来22年ぶり。2人は同28日に行われる決勝で、初の入賞を目指す。

“地の利”も生かしてみせた橋岡

アスリート一家に生まれ育った橋岡。従兄弟には浦和レッズDFの橋岡大樹を持つ 【写真:ロイター/アフロ】

 初めての世界陸上の舞台でも、橋岡は堂々とした跳躍を見せた。1回目は7メートル64に終わったものの、2回目に入る前に森長コーチから「助走がテンポ走みたいに(遅く)なっているよ」と助言をもらい、問題点を修正。「1本目は会場の雰囲気に飲まれたところがあったけど、2本目は『いつも通り』を心がけました」。今度は思い切って加速し、その勢いのままに飛び出すと、体は軽々と8メートルのラインを超えた。3回目の試技は、明日の決勝を見据えてパスを選択。余力を残して予選突破を決め「上々の結果だと思います。まずは予選を通過できてホッとしています」と、さわやかな笑顔を見せた。

 4月に行われたアジア選手権では、今回と同じ会場が使われていた。その大会を制していたこともあり、“地の利”もあったのかもしれない。25日の事前会見では「この競技場は屋根に覆われているので、風があまり吹かない。踏み切り板は少し動いたりすることもあるが、そこに気を付ければ何も問題ない」と言っていた橋岡。その言葉通りに、2回目の試技で会場にアジャストしてみせた。

 父の利行さんは棒高跳びの元日本記録保持者で、母の直美さんも100メートル障害と三段跳びで日本選手権を5度制している。さらに、従兄弟の橋岡大樹はJ1の浦和レッズでディフェンダーとしてプレーする、まさにアスリート一家に生まれ育った。本人が残してきた実績も輝かしい。今季は前述のアジア選手権の他、6月の日本選手権では3連覇を達成。さらに、7月のユニバーシアードでも優勝を果たすなど、充実したシーズンを過ごしてきた。

 各地で転戦を重ねた20歳は「海外の試合だからといって、特別に意識することはないです。食べ物もパンがあれば全然大丈夫ですし」と言う。この日も初の大舞台でありながら「すぐ近くに(ルヴォ・)マニョンガ(南アフリカ)や(ファン・ミゲル・)エチェバリア(キューバ)がいて、ワクワクしてました」と笑顔。緊張のかけらも見せないメンタルは、まだ大学3年の若者とはとても思えない。

 日本大に入ってからは、前日本記録保持者の森長氏の元で実力をつけてきた。特に磨いてきたのが助走の感覚だ。跳躍までの20歩を8、6、6に分け、それぞれにイメージを刷り込んできた。「最初の8は地面の奥を押して、体重を乗せていく。次の6はリズムを崩さずスピードを上げていき、最後の6は飛び出すまでスピードを上げる」。感覚としてではなく、より具体性を持った形になるように仕上げていき、動作の再現性を高めていく。そうして培った助走は「課題だった部分で、スピードを出せていることが一番の強みになった」と、安定した武器になっている。

日本人2人の決勝進出は初

日本勢初の入賞は射程圏内。恩師を超えられるか 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 8月17日に福井で行われた記録会で、橋岡の目の前で8メートル40センチの日本記録を打ち立てた城山も無事に予選を通過。日本勢が決勝に2人進むのは史上初で、入賞となればこれまた日本初の快挙となる。

 橋岡は「せっかく決勝に行けるので、いつも通り自分のやるべきことをやっていければいい。日本人としての1位を取って、少しでも良い順位に行きたい」。前回のロンドン大会では8メートル18センチが入賞ラインだった。4月にドーハで8メートル22センチを飛んでいる力が発揮できれば、充分に射程圏内といえるだろう。「恩師」の森長氏が果たせなかった目標に向けて、若きジャンパーが全力で飛び込んでいく。

(取材・文:守田力/スポーツナビ)
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