桐生は3度目となる世界陸上に準備万全 リレーは「誰が入ってもいけます」
23歳となった桐生が、2大会連続3度目の世界陸上を迎える 【Getty Images】
洛南高3年時の2013年に、短距離の個人種目では史上初となる高校生での出場を果たし、4×100メートルリレー(4継)では史上最年少の17歳で入賞を果たした。あれから6年が経ち、今季は5月のゴールデングランプリで10秒01を出すなど、10秒0台を7度マーク。ここまで大きな故障もなく、安定した力を見せている。今回は男子100メートルで、初出場時以来となる個人種目にも挑む。また、日本チームの中核となった4継では、前回と同じ3走での起用が濃厚。4走での起用が見込まれるサニブラウン・ハキーム(フロリダ大)との「9秒台バトン」にも注目が集まりそうだ。
プライベートでは“YouTuberデビュー”を果たすなど、活動の幅を広げる23歳。3度目の世界陸上で何を目指すのか、その思いを聞いた。(取材日は9月7日)
「どこのレースでも自分の走りができるようになった」
今シーズンは順調にきていると思います。この間のヨーロッパ遠征も満足する結果は出なかったですが(現地時間25日の試合は10秒08で4位。同1日の試合は10秒11で5位)、良い感じでいけているので。
――今季はここまで、10秒0台をすでに複数回マークされています。タイムとしてももちろんそうだと思いますが、フィジカル的にも充実されているのではないでしょうか。
そうですね。ここ2、3年はケガをしないということを一番重点に置いているので、それがうまいこといっているからケガなくこれているのかなと思います。東洋大のときなどは、調子が良くても毎回肉離れとか腰痛がきていたので。ケアの回数であったり、自分でできるセルフケアを積極的にやるようになって、昨シーズンからは良くなったかなと思います。
――ヨーロッパを中心に海外を転戦されて、名の知れた選手たちと一緒に走るという状況が続いたと思います。そうした環境に身を置き続けたことで、精神的な面での成長は実感していますか?
そうですね、自分の走りがどこのレースでもできるようになったと思います。
――今日の練習ではピンありのスパイクを履いていましたが、先日のヨーロッパ遠征ではピンのついていないスパイクも試されていました。試そうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
もともと僕は試合でも5ミリくらいのピンを使用していたこともあって、ピンなしでも走れるかなという気持ちがあったんです。それを数年前からアシックスが試してくれていて、履けるものができたので。そこから練習で走ってみて良い感じだったので、試合で履くようになりましたね。
「その時にそろった4人が日本の最高のメンバー」
前回大会の銅メダルを超える、より良い色のメダルを狙う 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
はい、そう思いますね。逆にここまできてまた銀を狙います、銅を狙いますという選手はいないと思いますし。
――今回のメンバーは、タイムを見ても今までよりレベルアップしたメンバーがそろった印象があります。桐生選手としても「このメンバーならいける」という思いはありますか?
僕個人としては誰が入ってもいけますね。その時に選ばれたメンバーが日本最強だと思うので。だから「○○がケガしていないから(今回は)二軍」とメディアなどが言うのは本当に失礼だと思うんですよ。その時にそろった4人が日本の最高のメンバーですし、そうなるようにコーチとも調整するので、それが一軍だと思います。
スピードの話をすると、前回のロンドン大会の時の練習では、(サニブラウン・)ハキームが(チェックマークを超えて)ぴったり出ているつもりでも、実際は全然出られていないという、感覚のズレみたいのものがありました。当然のことですが、最初に高校から代表に入った時とは速さが全然違うので。10秒後半の高校生と、10秒00とか01の選手とは、持っているスピードが全然違う。でも、今は多分誰からでも(問題なく)受け取れると思います。それは多分(メンバー全員が)スピード感に慣れたからで、だからバトンも失敗しなくなった。
――少し話はそれますが、7月からご自身のYouTubeチャンネルを開き、動画の投稿を開始されました。これはどういう思いがあって始めたのですか?
僕自身が現代っ子というか、テレビよりもYouTubeを見ることが多くて。ヒカルさんやラファエルさんの動画を見るのが好きでした。SNSには、よく練習方法についての質問がきていたのですが、それを文字だけで説明するのは難しいので、とりあえず自分のものを上げてみようと。文字だけだと、言葉によっては全く違う意味でとらえられたりするので、自分の発言をできたらいいなと思います。それこそ飯塚(翔太、ミズノ)さんもやっているので、今後は対談なども試合のない時にしてみたいですね。
――なるほど、将来的には他のアスリートとのコラボも考えているんですね。
ただ、今も「コラボしてください」というお話もいただいているんですが、最初からそれに頼るのは何か違うかな、と。始めたばかりなので、まずは自分の土台ができてからにしたいですね。
――始められてから、ファンの方などからの反響はいかがでしたか?
「動画で見れてうれしい」などのコメントはありましたね。それによって、どういう練習をしているのかという興味を持ってくれることも増えましたし。半年ほど前から「YouTubeをやりたい」ということは相談していました。やらないのはもったいないですし、現役中にやりたいことがあったから。新しいことをやってどうなるかは分からないですけど、今のところ楽しくやっています。
――1年後には東京五輪が控えています。そこに向けて、今回の世界選手権で出したい成果を教えてください。
まず個人の話をすると、ファイナル(決勝)の舞台に立つことをずっと目標にしています。今はファイナルに残って勝負するというのが最大の目標ですが、もしこれで今回しっかり残れたら、来年は「絶対(決勝に)残って勝負する」ではなくて、当然「メダルを狙いたい」とか、そういう気持ちになってくると思うので。それまでに自分に自信をつけたいというのもあります。リレーは今、本当にメダルを狙える位置にいますが、それでもまだアメリカやイギリスとは、個々の走力に差があるかなと感じています。この間のダイヤモンドリーグも僅差ではなかったので。(※編注:7月21日にロンドンで行われたダイヤモンドリーグで、日本はイギリスと0秒18差の2位。多田修平、小池祐貴、桐生、白石黄良々のメンバーで挑み、タイムは日本歴代3位の37秒78だった)
――そのアメリカ、イギリスと戦う上で、上積みしないといけないと感じているのはどういったところでしょうか?
まず、リオの時よりも個々の走力は単純に伸びていますし、バトンの部分でも3、4年前より精度は上がっていると思います。そういうところをもっとアップしていけば、リレーでも勝負できると思います。
(取材・構成 守田力/スポーツナビ)
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