苦しみ抜いてきた2019年の田中将大 “Tanaka Time”再現へ残り登板も最善を

杉浦大介

マジック1で迎えた19日のエンゼルス戦に先発し、チームを地区優勝に導いた田中将大(写真中央) 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

「もちろん勝てたことはすごくうれしい。(自分が先発して)そういう形で決められたっていうのはすごく良かったと思います」

 マジック1で迎えた9月19日(現地時間、以下同)のエンゼルス戦で7回を1失点に抑え、ヤンキースにとって7年ぶりの地区優勝を決める立役者になった直後のこと――。シャンパンの雫が飛び交うクラブハウスで、ヤンキースの田中将大は久々に爽やかな笑顔を見せた。

新たな試練を経験してきたシーズン

 初の開幕戦勝利、欧州(ロンドン)での初のMLB公式戦での先発、オールスター初登板(&勝利)、そしてメジャーでは自己初の地区優勝……。田中にとっての2019年は、渡米以降では初めてとなるハイライトばかりで満たされてきた。こうして並べると順風満帆の1年かと思うかもしれないが、実際にはさまざまな形で苦しみ抜いてきた日々でもあった。

 19日の登板を終えた時点で、今季31度の先発機会で11勝8敗、防御率4.47。故障者続出のチーム内で唯一先発ローテーションを守ってきたことは誇っていいが、残っている数字は本人が満足できるものではあるまい。

 7月25日のレッドソックス戦では自己ワーストの12失点という屈辱も味わった。思い通りにならないシーズンの中で、「今は我慢。耐える時」「自分で乗り越えるしかない」といった言葉を何度も残してきた。メジャー移籍後は総じて安定した働きを続けてきた田中だが、防御率4.74に終わった2017年に続き、新たな試練を経験してきたのは間違いない。

ボール変更とスプリットの浅からぬ関係

今季から使用される公式球と宝刀・スプリットの相性が悪く、痛打を浴びる場面も多く見受けられた 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 これほど苦しんできた主要因が、MLBが今季から使用しているボールに起因することはさまざまな形で指摘されてきた。より縫い目が低く、空気抵抗が減ったがゆえに飛距離が出る公式球。この新球によって、メジャーにはホームランの時代が到来した。9月11日には早くもシーズン最多本塁打記録が樹立され、月間本塁打記録も毎月のように更新されている。

 このような飛距離の増加はメジャーの全投手が同じ条件ではあるが、その影響が大きい投手がいれば、そうではない投手もいる。田中の場合、縫い目が低いがゆえに宝刀スプリットが握りづらくなり、落ちも甘くなるというネガティブな効用が生み出されたことが痛恨だった。

「空気抵抗が少ないと打球は遠くに飛ぶのと同じように、スプリットも空気抵抗が少ないと動きが小さくなる。握りや指で加える圧力を変えて修正するしかないが、とても良いスプリットを長い間投げてきた田中にはそれが難しい」

 ラリー・ロスチャイルド投手コーチの言葉通り、スプリットを磨き上げてきた田中だからこそ修正が難しかったのだろう。結果として、スプリットを投げた際の空振り率は去年の36.2%から、今季前半戦では16.6%にまで激減。代わりにメインの球種になったスライダーが機能しないと、頼れる武器が乏しくなる危機に直面した。今季の田中はとにかくスプリットの修正と、効果が薄れた決め球を補うための配球に四苦八苦してきた印象がある。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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