苦しみ抜いてきた2019年の田中将大 “Tanaka Time”再現へ残り登板も最善を

杉浦大介

6年連続二桁勝利の“偉業”

8月27日のマリナーズ戦で6年連続となる二桁勝利をマーク。菊池雄星との投げ合いで貫禄の投球を見せた 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 簡単に“ボールが変わった”というが、そのボールが飯の種である一部の投手のキャリア、人生にはこのように劇的な変化が及ぼされかねない。田中の苦闘を見てきて、“MLBは大胆なことをする”と空恐ろしさすら感じたもの。しかし、こうして“変化”に苦しんできた中でも、変わらなかったこともある。

 紆余曲折の中でもアジャストメントと修正を重ね、田中は今年も8月27日のマリナーズ戦でシーズン10勝を達成。これで日本人初の6年連続二桁勝利となり、先発が勝ち星を得るのが難しくなった時代において“偉業”とも言えるマイルストーンに到達した。

 また、冒頭で述べた通り、ヤンキースは独走で7年ぶりのア・リーグ東地区制覇。過去3度のプレーオフはワイルドカードでの進出だった田中にとってはこれも自己初の栄誉となり、10月にも登板機会が訪れることが確実になった。だとすれば、波乱の今季を総括するのはまだ早すぎるのだろう。

9月に入って自分なりの答えを見つけた?

“オクトーバー・ベースボール”の中で、毎年さまざまなドラマが生まれる。この季節に大舞台で好投すれば、シーズン全体が正当化される。二桁勝利を稼ぎ、“優勝投手”になった後でも今季の田中が不安定だったことは否定できないが、本当の勝負はここから。心強いのは、今季を通じてさまざまな適応を強いられてきた田中は、自分なりの答えを見つけたようで、9月に入ってからは持ち球への自信を感じさせるコメントも頻繁に残していることだ。

「シーズン序盤よりは自分の中で安定していいボールを投げられているので、そこは大きな違い。自分の投球に対してもより自信を持ってというか、自分の思っているボール、イメージ通りのボールを投げられる」

 試行錯誤を続ける中で、よりしっくりくるスプリットの握りを見つけ、球種を読まれる危険を回避するためにセットポジションの手の位置も低く変えた。それでも後半戦の防御率は5点台だが、シーズン中の修正はそれだけ難しいということ。大切なのは本人が快適に思いはじめていることで、19日のエンゼルス戦ではその成果が確実に感じられた。だとすれば9月後半、そして10月の逆襲に期待は膨らむ。とにかく一戦ごとの大切さを強調する田中にとって、シーズン残りの登板でもベストを尽くすことが未来への最善の準備になる。

「ポストシーズンに関して聞かれることが増えてきましたけど、自分自身そこらへんを特別意識しているということもなく、目の前の1登板、1登板に向けてしっかり調整していく。そこしか考えてないですね。そこができない人間が、その先のことを見据えてできるほど甘くはないと思うので」

2年前も秋に“快刀乱麻”

シーズンの残り登板、そしてプレーオフでも最善を尽くし、まだ見ぬ頂を目指す 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 振り返れば2年前――。シーズン中は今季同様にアップ&ダウンが激しかった田中だが、プレーオフでは3試合で20イニングを投げて2失点のみとほぼ完璧な投球をみせた。すべての後で、あの年に関して最も鮮明に思い出されるのは、やはり秋の“快刀乱麻”に他ならない。

 メジャー入り以降はポストシーズン全5戦で防御率1.50と大舞台での強さを誇示する強心臓右腕は、今秋、似たようなシナリオを再び現実のものとできるかどうか。まずはシーズン残りの先発機会、その後に続くプレーオフに注目が集まる。ニューヨーク中の視線が集中するポストシーズンで、鮮やかな“Tanaka Time”の再現に期待したいところだ。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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