田中将大、消化不良で2018年終了 まだ見ぬMLB「集大成」への道

杉浦大介

今季も“ビッグゲーム・ピッチャー”と証明

 最終戦を田中将大に託す展開にさえなっていれば……。ヤンキースが2018年のア・リーグ地区シリーズで敗れたあと、そんな風に感じたのは日本のベースボールファンだけではなかったはずである。

今季最終戦となった地区シリーズ第4戦。劣勢の試合を田中はベンチから見つめるしかなかった 【Getty Images】

 10月10日(日本時間)、ヤンキースタジアムで行われた地区シリーズ第4戦でヤンキースは今季メジャー最高勝率のレッドソックスに3対4で惜敗。シリーズは1勝3敗で決着し、ヤンキースの2018年は終わった。第2戦では5回1失点にまとめて勝利に大きく貢献していた田中だが、2度目のマウンドに立つことはかなわなかった。

「悔しいです。これで明日からいきなり何もなくなるわけですからね。これだけ緊張感ある中でやっていて、急に明日から何もなくなりますっていう感じ。抜け殻じゃないですけど、そんな感じになっちゃうかもしれないですね」

 試合後、背番号19のユニフォームを着たままロッカーの前に立った田中は、抑えきれない悔しさをそう絞り出した。ワールドシリーズにあと1勝まで迫った1年前と比べ、消化不良の思いは強かったに違いない。

 自身は一度の先発機会で仕事を果たし、プレーオフ通算防御率1.50はポストシーズンで5戦以上先発した投手の中で歴代5位。今季4度の対戦では19イニングで16失点と打ち込まれたレッドソックスにもリベンジを果たした後で、大舞台での成績はもはや“スモールサンプル”では片付けられまい。例え一戦だけでも、田中は今秋に屈指の“ビッグゲーム・ピッチャー”としての力量を改めてアピールしたと言って良い。

「僕が投げるかどうかはわからなかったですよ」

 シリーズ終了後、第5戦について水を向けられた田中本人はそう述べていた。順番的には左腕J.A.ハップの番だっただけに、確かにその通りだったのかもしれない。ただ、総力戦の中でリリーフでマウンドに立つ可能性も低くなかったし、ローテーションを変更しての先発も十分にあり得ただろう。そして、そんな流れにさえなっていれば、田中が再びチームを勝利に導く姿を想像するのは難しくなかった。ニューヨーカーにそう感じさせるだけの実績を、すでに積み重ねてきていたからだ。

地元記者からもリスペクトの声

「何かが足りないからここで敗退という形になってしまったと思う。個人的にもやはり全然満足いくシーズンではなかった」

 最後のメディア対応では田中はそう述べたものの、アップ&ダウンがあまりにも激しかった1年前と比べ、今季はより安定感を感じさせるシーズンではあった。

 前半戦では味方打線に助けられている印象もあったが、オールスター以降は12度の先発機会で防御率2.85と数字が向上。7月15日〜8月5日まで21回1/3、9月1〜14日まで20回と2度の長い無失点記録も継続し、日本人としては史上初となるデビュー1年目から5年連続での二桁勝利という記録も燦然(さんぜん)と輝く。

 “田中はヤンキースが入団時に支払った1億7500万ドル(7年1億5500万ドル契約+ポスティング料2000万ドル)という金額に見合った働きをしている”

 9月中旬には、普段は辛口で知られるニューヨークポスト紙のジョエル・シャーマン記者がそんなタイトルのコラムを発信したこともあった。現在の田中にはデビュー当初の派手さこそないが、新陳代謝の激しいメジャーでハイレベルなサバイブを続けている点は特筆に値する。ニューヨークという大都会に本拠を置いていることを考慮すれば、ここまでの道程が地元記者からもリスペクトされるのは当然だろう。

 特に今季は適切な時期にピークを迎えているようにも思えた。「後半に合わせて何かをやっているというわけではない」と本人は言うが、意識的ではないにせよ、昨季に続いて1年で最も大事な時期に投球内容は向上。何より、だからこそ、ヤンキースが地元開催の地区シリーズ第4戦で敗れ、“Tanaka Time”が早々と打ち切られたことは残念で仕方なかったのである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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