2つのハードルをクリアした日本代表 容易でなかった東南アジアのW杯予選初戦

宇都宮徹壱

理想的な前半と相手の気迫に阻まれた後半

ミャンマー守備陣の気迫のこもったプレーが目立ったが、時おり危険なタックルも見られた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 ヤンゴンのトゥウンナ・スタジアムでの重要な一戦は、現地時間18時50分にキックオフ。序盤は日本の時間帯が続くが、ミャンマーは自陣に引きこもることをよしとせず、ボールを握ると両ワイドを使いながら積極的に攻めてきた。これに対して日本は、冷静にパスカットを狙い、空いたスペースにカウンターを仕掛けてチャンスを作る。そして前半16分、相手のドリブルを堂安が止めて、すかさず富安が前線へパス。左サイドで受けた中島がドリブルで中央に切れ込み、右足でゴールネットを揺らして貴重な先制点を挙げた。

 日本の追加点は10分後の26分。自身のシュートをGKチョー・ジンピョに弾かれた堂安が、こぼれ球を拾って浮き玉のパスをゴール前に送り、これをフリーの南野がヘッドで決めた。その後はややこう着した展開が続いたが、43分に中島がループ気味のシュートを、44分には橋本が強烈なミドルを放ってスタンドを沸かせる。前半は日本の2点リードで終了。ミャンマーのGKが好セーブを連発していること、そして時おり危険なタックルを繰り出すことが気になったが、日本にとっては申し分ない45分となった。

 後半の日本も、攻撃の手を緩めることなくチャンスを作り続ける。後半12分、橋本が再び惜しいミドルを放ち、さらにCKから大迫がニアからヘディングで狙うも、いずれもGKがセーブ。19分、大迫のポストから柴崎が放ったボレーはクロスバーに嫌われる。さらに26分には、堂安に代わって途中出場の伊東純也がGKとの1対1の場面を作るも、こちらも相手の好判断に阻まれてしまう。後半はGKチョーをはじめとする、ミャンマー守備陣の気迫のこもったプレーばかりが目立った。

 この状況を打開するべく、日本ベンチは終盤に2枚目と3枚目のカードを切る。後半31分、南野OUTで鈴木武蔵IN、さらに36分には中島OUTで久保建英IN。日本代表のW杯予選最年少出場記録を更新した久保は、ピッチに送り込まれた直後に見せ場を作る。背後に酒井のオーバーラップを感じながら相手DFを招き寄せ、絶妙なタイミングでヒールパス。酒井のグラウンダーのクロスは、残念ながらわずかに鈴木には間に合わなかった。試合はそのまま2−0で終了する。

「当たり前のことを当たり前にする」大切さ

久保をはじめとする東京五輪世代も、気負いすぎることなくW杯予選デビューを果たした 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 終わってみれば、いかにもW杯予選らしいゲームであった。得点が前半の2ゴールのみというのは、パラグアイ戦と同じ展開。しかしそれ以前に、前回大会予選のタイ戦やカンボジア戦と同じ2−0というスコアから、東南アジアで勝ち切る難しさが見て取れる。あるいは相手のGKが当たっていたことで、0−0に終わった4年前のW杯予選初戦、シンガポール戦を思い出した人もいたことだろう。それでも早い時間帯で得点できたことで、W杯予選の初戦特有のプレッシャーを日本は乗り越えることができた。

 選手自身は、どう感じているのだろうか。殊勲の先制ゴールを挙げた中島は、環境の違いを柔軟に受け入れていた様子。いわく「その時の状況で、一番いいプレーをしようと常にどんな状況でも心がけているので、ピッチや雨に関して気にしすぎてはいなかったです」。攻守にわたって存在感を示した柴崎も「(初戦だからといって)そこまで変える必要はなかった試合かなと思います。それくらいミャンマーとのレベルの差があったので」とそっけない。

 東南アジアだからとか、予選の初戦だからとか、そういったエクスキューズがほとんど聞こえてこない。そして、当たり前のことが当たり前にできる。これこそが、今の日本代表の強みである。それを補強するのが、試合後の森保監督のコメント。

「ミャンマーは個の力がしっかりしているし、チームとしての戦い方もしっかりプランをもって遂行できていたので、その中で勝っていくのは簡単ではないと感じました。結果が出たことはよかったですが、今後もこれまでどおり一戦一戦、最善の準備をするということ。相手を上回っていくために、われわれがしっかり準備しなければならないことは、今日の試合であらためて感じました」

 W杯本大会への長い道のりは、まさに始まったばかり。この2次予選も決して楽観はできないが、どんな状況にも動じない日本代表に、かつてないほどの頼もしさが感じられた。加えて、堂安や冨安や久保といった東京五輪世代も、気負いすぎることなくW杯予選デビュー。スタメン唯一の国内組だった橋本も、目の覚めるようなミドルを2本放つなど、遜色ないプレーを見せていたのも好材料だった。東南アジアでのアウェー、そして予選初戦。2つのハードルを同時にクリアしたことで、日本の視界は一気に開かれたように感じられる。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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