大谷翔平、二刀流復活へリハビリは順調 フォームの変化に透ける“理論と感覚”

丹羽政善
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提供:日本航空

昨年と異なる、手と肘の位置

昨季の大谷の投球フォーム。左足が地面に着く直前、ボールを手にした右手が、右肘よりも下にある 【Getty Images】

 なお、最近のブルペンや、キャッチボールを見ていると、昨年とのフォームの違いがうかがえる。

 例えば、左足が地面に着く直前、昨年までボールを手にした右手が、右肘よりも下にあった。しかし今年は上にある。大谷に聞くと、「フォームというか、メカニックはいろいろいじってますね」と話し、補足した。

「それは別にケガをしててもしてなくても、はい、バッティングと一緒ですけど。毎回毎回変えて、どれがいいのかな、というのはブルペンのたびに変えたりしてるので、そういう感じでやってます」

 ただ、そこには何かしらの意図があるのではないか。

 手と肘の位置の違いについて、川崎市武蔵小杉にある「ベースボール&スポーツクリニック」の馬見塚尚孝医師は、こう説明した。

「ステップ直前で投球腕の肘より手が高くまで上がっている場合、体幹が大きく加速するときに手がすでに頭の後ろにあるため、体幹と腕を同時に加速できます。体幹の加速に対して腕の加速のタイミングの遅れがないため、肩肘の負担が小さく障害リスクが低い投げ方だと言えます(外旋位コックアップタイプ)」

 一方、手が下にある場合は、肩関節が内旋する内旋位コックアップタイプと呼ばれ、こういう特徴があるという。

「体幹の加速に対して、 腕が遅れて加速されることになるので、外旋位タイプと中間位タイプ(ステップ直前の肩関節が中間位付近にある)と比べても球速がさらに出やすい利点がある一方で、肩肘への負担が大きくなる投げ方です。実際に、肩痛・肘痛で受診する選手にはこの投げ方が多くいます」

大谷自身は「感覚に従うタイプ」

大谷本人は「感覚に従うタイプ」だと話す。「これがいいなと思ったらやってみて、ダメだったらやめていく、その繰り返し」とのこと 【Getty Images】

 大谷自身も現在の投げ方のほうが、故障リスクが低いことを知っている。

「理論的には、そう言われてますね」
 
 では、リハビリ過程で、肩肘に負担のかからないようなフォームを模索しているということか。そこを確認したものの、大谷は肯定も否定もしなかった。

「どうですかね、僕はもう感覚に従うタイプなので、これがいいなと思ったらやってみて、ダメだったらやめていく。その繰り返し。そこに結果的にそういう理論がありました、ということはあるかもわからないですけど」

 では、エンゼルスの投手コーチやバイオメカニストらから指導されたわけではないのか?

「ぜんぜん、言われてないですね、はい」

 手と肘の位置の話だけでなく、他にもさまざまな理論があることを大谷は理解している。しかし、それが必ずしも、自分に適しているとは限らない。

 前出の馬見塚さんもこう指摘する。

「もともと、動作の“型”はあくまで大ざっぱなもの。重要なのは彼が言うように“動感”です。しかし、ある程度の型には経験やサイエンスが詰まっていますので、そこはあくまで参考にした方がいいと思いますが、その上で自分の動感を信じるということが、大切ではないでしょうか」

イチローも求めた究極の形へ

“これがいいなと思ったらやってみて、ダメだったらやめていく。その繰り返し”

 結局、大谷のその言葉にすべてが集約される。

 理論と感覚。打者としても投手としても、両者を突き詰め、相性をたどる。ただそれは、終わりなき作業。

 かつてイチローが、こんなことを言っていた。

「打撃に関して、これという最後の形はない。『これでよし』という形は絶対にない、っていうことが分かっている。でも今の自分が最高だっていう形を常に作っている。この矛盾した考え方が共存しているということっていうのは、僕の大きな助けになっている」

 大谷も同じように、存在しない究極の形を求め、試行錯誤を繰り返していく。


JALは、日米間の渡航サポートを通じて、世界を舞台に挑戦を続ける大谷選手を応援しています

【(C)Japan Airlines】

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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