連載:東京五輪に続く世界バドミントン

2連覇の桃田が見せた「無敵の強さ」 連戦を乗り切るペース配分に進化あり

平野貴也

6試合中4試合を30分台で勝ち上がる

「無敵の強さ」を見せた桃田。すべての試合でストレート勝ちを収めた 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 無敵だった。ただ、難癖をつけるようで嫌なのだが、評価の難しい大会でもあった。スイスのバーゼルで行われたバドミントン世界選手権は、現地時間25日に最終日を迎えた。男子シングルスは決勝戦で、世界ランク1位の桃田賢斗(NTT東日本)が2-0で同9位のアンダース・アントンセン(デンマーク)を破り、日本勢男子初の連覇を成し遂げた。

 相手のスマッシュをダイビングレシーブで返したカウンターが決まり、シャトルが相手コートに落ちるのを見届けた桃田は、倒れ込んだまま両腕に力を込め、偉業達成の喜びを噛み締めた。第1ゲームのインターバルまでは、コートや相手の状態を確かめながら戦ったために点差がつかなかったが、そこからは圧倒。「昨年はディフェンス主体のプレーで優勝できたけど、それから対策をされるようになった。守ってばかりでは勝てないと分かり、アグレッシブに攻めていくことをテーマにやってきた。今大会では、より速く、より前に、というプレーができた分、ディフェンスでもプレッシャーを与えることができ、優勝の要因になったと思う」と話したとおり、自ら積極的に攻撃を仕掛けるようになった。その分、試合時間を短縮して6試合中4試合を30分台で終えた。最長でも3回戦の55分。アントンセンが1時間以上の試合を2度も行っているのとは対照的だった。

ライバルたちの相次ぐ脱落も

 日本では、桃田の試合だけが生中継されたようだが、どう見えただろうか。アントンセンは、過去4度の対戦で3度はファイナルゲームにもつれ込んでいる曲者だが、決勝戦では疲労を隠せず、まったく相手にはならなかった。桃田は全試合でストレート勝ち。どの大会よりもあっさりと優勝した。本人も「こんなにスムーズに優勝できるとは思っていなかった」と話したが、正直に言って、試合を見る立場から言えば、拍子抜けだった。

 元々、前回の決勝で戦った中国のエース石宇奇(シー・ユーチ)や一昨年の王者ビクター・アクセルセン(デンマーク)が負傷で欠場しており、桃田は圧倒的な優勝候補。その上、世界ランク2位の周天成(チョウ・ティエンチェン=台湾)や同5位でリオデジャネイロ五輪金メダルのチェン龍(ロン=中国)、桃田が苦手なタイプで好敵手の同8位アンソニー・シニスカ・ギンティン(インドネシア)といったライバルが、すべて桃田戦にたどり着かずに敗退。桃田が対戦したのは、世界ランク2ケタの相手ばかりだった。決勝でようやく9位のアントンセンと対峙したが、相手は左の脇腹を押さえながら戦っている手負いの状態。誰も厳しい勝負に持ち込むことさえできず、桃田は「無敵」だった。しかし、視点を変えて考えると、なぜ桃田だけが負傷で離脱することなく、波乱の多い大会で格下にアップセットされることもなく、1人だけ順当に勝ち抜けたのだろうか。

「大会全体を通して、調子は良かったと思うので、点数(失点)も抑えられた。決勝の相手は、完全に連戦の疲労が見えていた。一発勝負であれば、彼との差はあまりないと思うけど、1週間を通しての差が点数に表れたかなと思う」

 桃田のこの言葉が、先に敗れ去った強豪選手との差を示すものであり、今大会で見せた本当のすごさを表現している。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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