連載:東京五輪に続く世界バドミントン

2連覇の桃田が見せた「無敵の強さ」 連戦を乗り切るペース配分に進化あり

平野貴也

連戦による取りこぼしを防ぐために

今大会では「より速く、より前に」というスピーディーなプレーで、対戦相手を圧倒した 【写真は共同】

 昨年に世界選手権を制し、世界ランク1位になってから、桃田は世界中の強豪から狙われる立場になった。勝たなければ先がなく、相手は全力で挑んでくるが、桃田は勝ち続けることを考えてペースを調整しなければならない。大会は、連日試合が続くトーナメント形式。1回戦や2回戦で負けるならともかく、すべての大会で優勝を争えば、1週間で5試合以上をこなしながら海外を転戦することになる。試合数が多くなる強豪選手ほど、休養が少ない。すべての大会でコンディションを維持するのは、困難だ。

 桃田も今年初戦のインドネシアマスターズや、夏の3連戦の1つ目だった7月のインドネシアオープンでは、早期敗退を喫している。調子が上がる前に敗れたり、疲労で調子を落としたりする選手が多く、アップセットも目立つ。また、1大会に限っても、死闘続きになれば、今大会のアントンセンのように、最後まで体力をキープできない。桃田のように全選手から全力で挑まれる立場になると、消耗を避けるのは難しい。トップクラスの選手の一番の敵は、疲労と言っても過言ではない。試合に勝つだけでなく、勝ち方まで理想に近付けなければ、大舞台で確実にタイトルを獲得することはできないのである。

「15分の短縮」の中に見せる成長

世界ランク1位になって以降、ハイペースで挑んでくる相手への対策を課題としてきた 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 そこで、桃田が取り組んでいるのが、試合時間の短縮だ。元々の課題である攻撃力の強化とも関係するテーマでもある。今年1月、桃田はインドネシアマスターズで、苦手とするスピードタイプのギンティンに、得意のディフェンススタイルではなく、あえてスピード勝負を挑んで攻め勝った。ただし、疲労が溜まり、次の試合で腰を負傷。決勝戦は棄権するか迷った末に挑戦したが、敗れた。

 日本代表で男子シングルスを担当する中西洋介コーチは、次のように説明する。

「ハイペースに耐えられる身体作りがすごく大事。そういう試合をした方が、1年間を戦うことを考えると楽。今、ほとんどの(強豪選手との)試合が60分を超えている。なるべく45分以内に倒す、点数で言うと1ゲームで15点以内。桃田の場合、相手がペースを上げて挑んでくるので、第1ゲームが特に競り合いになりやすい。陸上競技に例えるなら、桃田が400メートル走の選手で、相手は100メートル走のペースで挑んでくる感じ。それでも勝ってしまうようなイメージを持ってほしいと言っている」

 時間の話で言えば、短縮を目指すのは、わずか15分。しかし、競り合いになれば、精神力も消耗するため疲労は大きくなる。桃田は、2020年の東京五輪(世界選手権や一般のオープン大会とは異なり、リーグ戦形式の予選があるが、連戦になるのは同じ)の金メダルを確実にするための課題として、強豪選手のスピードアップに動じずに抑え切り、消耗せずに勝ち上がるペース配分の修得に取り組んでいる。

 今大会では唯一、3回戦のH.S.プラノイ(インド)戦のみ第1ゲームで21-19と競り合ったが、終盤にスピードを上げて、スマッシュからの連続攻撃でゲームを取り切った。残しているギアの数が違った。強豪との対戦がなく、楽な組み合わせになったことは確かだが、完全無欠の強さを求める王者だからこそ、絶好調でなければ勝負できない相手を軽々と蹴散らすことができたのだ。

 興醒めするほどの強さで飾った連覇の中に、隙を見せなくなった王者の進化を感じる大会だった。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント