IDでもっと便利に新規取得

ログイン

クラブの経営課題克服に秘策はあるか?
Jリーグコンサル担当に聞く「人材難」

社長ひとりですべてのステークホルダーに向き合う限界

岩手の宮野聡社長。コンサルファームを退職して社長に就任するにあたり、右腕となりそうな人材と何人も面談したと語る
岩手の宮野聡社長。コンサルファームを退職して社長に就任するにあたり、右腕となりそうな人材と何人も面談したと語る【宇都宮徹壱】

──岩手の宮野さんも、そういったことは百も承知だったでしょう。社長を引き受けるにあたり、自分の右腕になりそうな人材を20人から30人くらい都内で面談したそうです。それで白羽の矢を立てたのが、アシックスでグローバル・マーケティングを担当していた人でした。本人もやりがいを感じつつも、待遇面や地縁のない盛岡での仕事に若干の不安があったと言っていました。


 移籍先に古株スタッフが多かったりすると、どうしても外様アレルギーというものが起こりやすくなると思います。迎える側が受け入れてくれないと、どれだけ実績がある人でも組織内で孤立してしまい、先に進めなくなるというのはよくあるパターンですよね。ですから改革する側は、ある程度の人数でチームを組んで経営方針を徐々に浸透させていくというのが、手段としては理想だと思います。


 これはヨーロッパの事例ですが、FCバルセロナの副会長だったフェラン・ソリアーノという人がいます。この人はチームを組んでバルサの経営の立て直しに参画し、それから今度はバルサチームの中核メンバーとともにマンチェスター・シティに乗り込んで改革を成功させているんですよね。チームでもって、多方面のステークホルダーの調整をしたり、経営課題のソリューションを提示したりしている。Jクラブにとっても、非常に示唆に富んだ事例だと思います。


──理屈としては分かりますが、さすがにJ3クラブとは規模感が違いすぎますよね(苦笑)。


 確かにそうなのですが、クラブの大小にかかわらずステークホルダーの数というのは、実はそんなに変わらないんですよね。J1クラブであれJ3クラブであれ、自治体、スポンサー、サポーター、メディアを相手にしないといけないわけですから。それをある程度のチームで回せるのがJ1で、ひとりがやらざるを得ないのがJ3ということなんでしょうね。


 もちろんJ1クラブでも、各ステークホルダーにきちんと対応できるような体制ができているクラブは、本当に数えるほどしかいないと感じます。そもそもチームを組めるかどうかという話になったとき、2つの問題に必ずぶち当たるんですよね。まず、トップマネジメントが権限委譲できる適切な人材がいるかどうかということ。仮にいたとしても、その人材を雇用できるだけの財務的な基盤がクラブにあるかということ。この2つが、常にネックになるわけですよ。

Jリーグ主導の人材投資によるバリューアップは可能か?

里崎氏が提案する「Jリーグ主導での人材投資」。クラブのバリューアップはリーグ全体のバリューアップにもつながる?
里崎氏が提案する「Jリーグ主導での人材投資」。クラブのバリューアップはリーグ全体のバリューアップにもつながる?【宇都宮徹壱】

──優秀な人は、間違いなくいると思うんですよ。Jリーグが始めたSHC(スポーツヒューマンキャピタル)からも、優秀なスポーツビジネスの人材が輩出されていますし。問題なのは、やはり後者ですよね。いくら本人が「年収が下がってでもやりたい!」と思っても、そこに嫁ブロックが入れば断念せざるを得ない(笑)。実際、宮野さんも社長就任を承諾するまで、家族を説得するのにそれなりの時間を要したみたいです。


 SHCの卒業生にJクラブで働いてもらうためには、どうすればいいのかという話は、実は以前から議論されていたことなんですよね。ひとつ考えられるのが、ある人材がJ3クラブ等で働くことになった時に、人件費の足りない部分をJリーグが一時的に補填するというアイデア。そこで結果が出れば、自分の給料にすればいいわけです。


──なるほど、それは妙案ですね。Jリーグには、経営難に陥ったクラブが公式試合の継続ができるようにサポートする、公式試合安定開催基金という制度があります。もちろん返済義務はありますし、これを受けたクラブはネガティブなイメージがつきまとうことになります。ただし「人材への投資」という意味合いであれば、わりと前向きに捉えることができるんじゃないですかね?


 そうですね。きちんとビジネスが分かっている人を派遣して、今いるスタッフにそのイロハを教えることで得られる伸びしろも少なからずあると思います。派遣した人材が機能すれば、人ひとり雇うくらいの収益は出せるでしょうし、そうなればクラブからの持ち出しも実質ゼロですし。


──岩手の宮野さんは、コンサルファームからの出向は1年だけ。2年目はクラブがお金を払えないということで、月2回だけ会議に参加する勤務形態に変えざるを得なかったそうです。その結果、せっかく着手した改革が元の木阿弥(もとのもくあみ)になってしまったと。


 明確な根拠はありませんが、やっぱり3年はほしいですよね。Jリーグで3年の猶予を与えられればいいのですが、それが難しいようであれば地元スポンサー等を巻き込むのも一案かと思います。ただしその場合、単純に露出を前提としたスポンサーシップではなく、クラブのバリューアップを支えるというアクティベーションにするんですよ。スポンサーへの還元プラス、クラブの収益も考えられる人が常駐できるようにするわけです。それで期限が3年。3年で成果を出せなければ、一般的な新規事業でもなかなか認められませんから。


──Jリーグが3年期限で、人材を派遣するというやり方は難しいのでしょうか?


 Jリーグでそれをやると、貸付金ではなく投資になるので「どういうリターンがあるのか」という説明を考える必要は出てきそうですね。たとえば奨学金のように、成果が出たら少しずつ返すというやり方もあるかもしれない。いずれにせよ、人材を送り込んだクラブがバリューアップしたら、それはリーグ全体のバリューアップにもなるわけです。そうして考えれば、Jリーグにとっても悪くない話だと思います。

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

スポナビDo

新着記事一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント