「スピードへの回帰」を目指す田中恒成
自分の良さを見つめ直し、取り戻す防衛戦
2度目の防衛戦に向け、険しい表情でトレーニングを行う田中恒成
2度目の防衛戦に向け、険しい表情でトレーニングを行う田中恒成【写真は共同】

 これぞ、田中恒成という試合が、明日のリングで見られるのではないか。そんな期待感を抱いている。


 8月24日、愛知・武田テバオーシャンアリーナで行われるWBO世界フライ級タイトルマッチで、このタイトル2度目の防衛戦に臨む世界3階級制覇王者の田中恒成(畑中・13勝7KO無敗/24歳)。同級1位のサウスポー、ジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ・22勝13KO2敗1分1無効試合/28歳)を迎える一戦は、自分の良さを見つめ直し、取り戻すための戦いでもある。

パワーに傾いた木村戦と田口戦

 キーワードは「スピード」。これは田中の代名詞と言ってもいい、最大の武器だが、ここ最近、特に昨年9月の木村翔(青木)、今年3月の田口良一(ワタナベ)と続いた日本人対決では「パワー」寄りのボクシングで会場を沸かせた。


 木村も、田口も、ともに好戦的なタイプのボクサー。相手の土俵で真っ向勝負を挑み、白熱の打ち合いを繰り広げた試合は、実にエモーショナルだった。木村戦が、2018年のWBO、JBC(日本ボクシングコミッション)の年間最高試合に選出されたのも、戦いの原点を思い起こさせ、見る者の心を揺さぶるような試合内容が評価されたからに違いない。プロとして、それは最高の栄誉でもあるだろう。


 ただし、田中恒成という異能のボクサーが持ち合わせているもの、すべてが表現された試合であったかと言えば、決してそうではなかった。


 パワーに傾いたことで「前重心になり、被弾が目に付くようになった」と言うのは、田中のフィジカル面をサポートする河合貞利フィジカルトレーナーである。


「パワー重視になると、どうしても距離も近付くし、パンチに体重を乗っけようという打ち方になる分、前傾になって、足も止まりがちになってしまうんです」

トレーナーが指摘する足首の強さ

河合トレーナーは田中の足首の強さについて、「常にかかとが上がった状態で、踏み込んだ足先が突き刺さる感じ」と表現
河合トレーナーは田中の足首の強さについて、「常にかかとが上がった状態で、踏み込んだ足先が突き刺さる感じ」と表現【Getty Images】

 田中のスピードが如実に示されるのが、出入りの鋭さ、高速ターン。それを可能にしているのが、「突き刺さる」と河合トレーナーが表現する足首の強さだ。


「たとえば、踏み出した足が着地して、戻る、また踏み込む、この(出入りの)動作は足首でやるんですね。で、ほかの選手は大抵、踏み込んだ足首がたわむんです。ぐっと一回落ちて、そこから蹴り上げる感じで戻していく。恒成は足首が強くて、常にかかとが上がった状態で、踏み込んだ足先が突き刺さる感じなので、そのまま戻せるんです」


 つまりステップイン、ステップバックをほとんどワンアクション、一挙動で瞬時にでき、さらにその動きをつなげていくことができるのが田中なのだ。もちろん前後の動きだけではない。ステップインからサイドへのターンなどの切り替えもまた同様である。


 ところが、強いパンチを打ち込もうと重心が前になることで、その足が止まりがちになる。「打って、外して、また打つ」というテンポの速い動きが、失われつつあった。この動きを取り戻し、田中本来のスピードに回帰しようというのが今回のテーマだ。

船橋真二郎

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社)、『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)に執筆。『ゴング格闘技』(イースト・プレス)でコラム連載。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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