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指導者のエゴが才能をダメにする ノムラの指導論
選手を育てる=「人生」を教えること
野村克也の指導論
ヤクルト黄金時代を築いた。春季キャンプでは徹底的に「人間教育」についてミーティングをしたという
ヤクルト黄金時代を築いた。春季キャンプでは徹底的に「人間教育」についてミーティングをしたという【写真は共同】

「お前は何のために生きているんや?」


 ミーティングの冒頭、私は必ずと言っていいほど、選手にこう質問した。すると、返ってきたのは、「いいプレーをすること」「とにかく稼ぎたい」――。

 たしかに「いいプレー」や「稼ぎたい」というのは、目標には値する。だが、「何のために生きるんや?」という問いかけに対して、「なんだ、その程度のものか」と思えてしまう。目標としてはあまりにも浅すぎるのだ。


 そこで次はこんな話をした。

 人生とは――「人として生まれる」「人として生きる」「人と生きる」「人を生かす」「人を生む」の5つの意味があるのだ――。


 これを話してから、選手に対して「どういう人生を生きたいのか」「どういう人間になりたいのか」、この2つを定めることが重要だと説いた。そうなると、「どういう人生を生きたいのか」の答えは、「いいプレーをすること」「とにかく稼ぎたい」などという答えは出てこなくなる。

 たとえば「子どもたちが憧れる内野手になりたい」という目標はどうだろう。そのためにするべきこと、打撃、守備、走塁をレベルアップさせる。レベルアップさせるには、毎日のルーティーンを決めて、それを必ず実行する必要がある。そうして1ヵ月、3ヵ月、半年、1年と続けて、自分のレベルは向上しているのか。向上していないとしたら、何が問題なのか、立ち止まって考え、解決策を図る。このように謙虚に自分自身を見つめることで、スキルアップをしていくというわけだ。


 このような話から始めると、私は野球評論家時代の9年間で培ってきた知識を、惜しみもなく選手たちに授けた。ホワイトボードに私の考えをスラスラと書き連ねていくと、選手たちは野球以外の話が多かったことに驚く者もいれば、戸惑う者もいた。

 だが、ミーティングで筆記したノートは、ものの1〜2週間もすれば、真っ黒に埋まっていく。それを後になってから読み返す者もいれば、毎日手元に置いて暗記している者もいた。

 こうして徐々にではあったが、私の考え方がチーム内に浸透していった。当時のヤクルトは万年Bクラス。とてもじゃないが、上位進出を狙えるようなチーム状況ではなかった。

 けれども、才能を開花させていない者、あるいは才能があることに気づいていない者が多いように感じた。つまり、彼らの考え方を変えてあげることさえできれば、本来持っている以上の力を引き出してあげることができるのではないか。ひいてはそれがチームの戦力として大きく機能すると、私はヤクルトというチームを率いた直後から感じていたのだ。


 私の直感は当たった。就任1年目の90年こそBクラスに甘んじたものの、翌年は3位、そして3年目の92年は14年ぶりのリーグ優勝、翌年はリーグ連覇に日本一と、まさにヤクルトの黄金時代を築くことができた。


 繰り返し言うが、私は春季キャンプのミーティングでは、選手たちに野球の戦術技術など1つも教えなかった。繰り返し説いていたのは、「人間教育」だった。それによってチームは良い方向に進むことができたと、今でもそう信じている。


※本記事は書籍『指導者のエゴが才能をダメにする ノムラの指導論』(株式会社カンゼン)からの転載です。掲載内容は発行日(2019年4月25日)当時のものです。

株式会社カンゼン

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