連載:アスリートに聞いた“オリパラ観戦力”の高め方

山本篤が挑む世界記録と自分との戦い パラ走り幅跳びにおける「義足」の美学

C-NAPS編集部

世界記録をめぐる争いは群雄割拠

各国の強力なライバルたちと切磋琢磨しながら、世界記録の更新を狙う山本 【写真:C-NAPS編集部】

 僕と同じクラスで注目の選手は、リオデジャネイロパラリンピックで銅メダルを獲得したダニエル・ヨルゲンセンというデンマークの選手ですね。まだ若いですし、自己ベストが6メートル72で僕よりも上。17年の世界パラでも優勝しているので、僕にとっては強力なライバルです。ダニエルは高さよりスピードで跳ぶタイプで、低いジャンプだけど遠くまで跳んでいきます。僕はどちらかというと高さを出すタイプで、跳び方の個性も違うので、そこにもぜひ注目してみてください。

 その他で「すごいな」と思った選手は、南アフリカのンタンド・マハラングという両足義足の選手ですね。僕らは義足にも膝関節を付けていますが、それを付けずに両足義足で走って、まるでトランポリンのように「ポーン!」と飛び跳ねるんですよ。ンタンド選手の跳躍を初めて見た時は本当に驚きました。従来の走り幅跳びの常識とはかけ離れた跳び方で、踏み切りの一歩前がすごく長く、踏み切る際の義足への体重のかけ方もすごく強い。両足義足の選手ならではのジャンプには注目です。

 今はダニエルが6メートル72、僕が6メートル70。そして、ドイツのレオン・シェーファーが6メートル99で世界新を更新しました。ンタンドも6メートルを超えていて、4人のレベルがすごく詰まっています。さらに英国の選手も6メートルを跳びましたし、リオの頃は4人しかいなかった6メートル台の選手が増えました。東京は非常にハイレベルな争いになりそうです。

東京では、満員の競技場で最高のパフォーマンスを

北京やロンドン(写真)の会場は満員。山本は東京でも多くの観客が集まることを期待している 【写真:アフロスポーツ】

 北京、ロンドン、リオと3大会連続でパラリンピックに出場しましたが、北京やロンドンは満員で、リオも思ったより観客が入っていました。なので、東京に期待したいのは、「満員の競技場」。そこで最高のパフォーマンスを見せたいですね。観客の数はパラリンピックの関心の高さを表します。新国立競技場は6万人以上入る大きな会場なので、もしかしたら満員は難しいかもしれませんが、できるだけたくさんの方に見にきてもらえたらと思います。

 僕自身は18年の平昌パラリンピック出場後から、東京に向けて始動しました。18年は肩の脱臼と手術があって思うようなシーズンは送れませんでしたが、逆にケガをしているタイミングでしかできない地道なトレーニングをコツコツ行えたのは収穫でした。その積み重ねが、今シーズンの自己ベストにつながっています。いい環境、気候、自分のコンディションが整ったタイミングで、世界記録を出したい。イメージはできているので、おそらくすべての条件がそろえば記録も出るはずです。世界一になった上で、東京パラリンピックに臨むことができたら最高です。

 また、冬のパラリンピックに出場することで、気持ちの部分に大きな変化がありました。平昌で成田緑夢選手や新田佳浩選手といった金メダリストを間近で見て、「自分にとって最高のパフォーマンスをすること」に着目できるようになったんです。リオの時は「記録よりも金メダル」という気持ちでした。でも他の選手の方が強ければ、自分が100パーセントを出しても金メダルは取れないし、実際にそうだったから銀メダルでした。他の選手をコントロールすることはできないので、自分自身のパフォーマンスにフォーカスするようになりました。

 世界記録は自分の“内側”の記録を上げれば届くものなので、更新を目指して自分のパフォーマンスを上げていきたいです。さらに東京の走り幅跳びの日に最高潮になるよう逆算して、最高のコンディションで本番を迎えたいと思います。その結果、金メダルが取れれば最高。ベストを尽くせれば、たとえメダルが取れなかったとしても、悔しさはないと思います。そう思えるような最高のパフォーマンスがみなさんに見せられたらいいですね。

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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